Sheaffer Legacy Heritage Black Lacque, Palladium Plate Trim
シェーファー社の歴史は古く、100年近くになる。アメリカで生まれたこのメーカーは、
様々な新しい機構を生み出し万年筆の歴史に名を馳せた。レガシーヘリテージは、同社の
ハイエンドモデルであり、フラッグシップになっている。私が選んだブラックラッカーパ
ラディウムトリムの他に、スターリングシルバーやブラッシュトゴールドなどのバリエー
ションも有名で人気が高い。アメリカ大統領の何人かが世界の舞台で使った歴史もある。
シェーファー万年筆の最大の特徴は、大きな菱形をしたインレイドニブだ。昔からこの
形をしている。例えば、モンブランならキャップトップのホワイトスターのロゴマークが
モンブランのブランドシンボルになっており、ペリカンなら自分の血肉を子に与えるペリ
カンという鳥の愛情の深さを表す親子二羽のペリカン図柄と嘴の形をしたクリップがメー
カーのシンボルになっている。シェーファーの場合は、この大きな菱形ニブこそが、メー
カーを主張するシンボルだと私は思う。クリップに付いたホワイトドットにも何かの意味
があるのだろうが、私にはメーカーの「おまけ」にしか思えない。
万年筆のボディが地味な黒色エボナイト製だった時代から、高価な鼈甲に変わる素材と
して発明されたセルロイドがボディに用いられるようになり、万年筆が総天然色の色合い
を帯びた時、万年筆はまさに百花繚乱の時代を迎える。ペン先にもそれまでにない工夫が
施されて、様々な形が生み出された。メーカーが競って新しいペン先やインクの吸入機構
を考案し世に問う時代が来たのだ。100年と少し前のことだ。
そんな時代に、ウォルター・A・シェーファーは従来の万年筆に不満を持って、自分で
万年筆を製作した。これがシェーファー万年筆の誕生だ。以来、生涯保証の万年筆やタッ
チダウン吸入式などの特許を得て、その成功が今日に至っている。
長い歴史の中で、このペン先の形は変わらない。メカニズムへの自信の表れだと思う。
ている。シェーファーの万年筆は、それが全く逆で、上を向いて反っている。私は、日本
語を書くならペンポイントは鉛筆の芯のように中心にある方が良いと思っている。中心か
らずれて軸の上部側にあると、書いていてふわふわと落ち着かない感じがして思うように
文字が書けない。書くのが嫌になる。実際に何度かそのような万年筆と出逢って試し書き
をしてみたが、購入したことはない。
外見がいくら気に入っても、ペンポイントのある角度が気に入らなければ、その万年筆
とは縁がなかったと諦める。この点から見れば、シェーファーの万年筆は毛頭眼中に入ら
ないはずのものだ。
柔らかなペン先を思いのたけ紙に押しつければ、しなって弓のように撓む。その撓んだ
弓形を最初からシェーファーのペン先は形作っている。逆もまた真なりとはこのことか。
その、好みとは全く反対のペンポイントが紙に触れると、あたかも柔らかなペン先がし
なっているかのような書き心地なのだ。筆圧の軽い私には、これ以上ペン先をしならせる
ことはない。シェーファーはどちらかというとペン先が硬い。しかし、最初からしなって
いるかのような形のゆえに、妙に硬さが気にならない。これこそが、シェーファーの狙い
なのだろうと思う。
クリップの締まり具合がぎこちなかったので、後日、キャップだけ交換していただく約
束をして、これを持ち帰った。今使っているものは、キャップもクリップも問題はない。
購入した時のことをよく覚えている。万年筆はいくらボディが良くてもペン先が気に入
らなければ使えない。ペン先の柔らかさや調子の良さが気に入って、書き味だけが気に入
らない場合もあるが、そんな時には、調整で何とかなるものか、調整が効かないものなの
かで判断する。
何年も使って自分の癖が付くのも調整の一つと私は考える。ペンクリニックなので、プ
ロに調整してもらうのも調整だが、自分が最も書き味が良いと感じるまでには、やはり何
年かの年月が必要だ。
シェーファーレガシーは恐らくプロに調整してもらっても、劇的に書き味が変わること
はないと思う。だから、最初の印象が大切だ。
この万年筆に出逢ったことを幸いに思う。ボディのデザインも、今こうして見れば、主
張し過ぎず、書くことに専念させてくれる飽きの来ない拵えだと思う。
■ ペン先:18金 文字幅:F
■ ボディ/キャップ:ブラスベース ラッカー仕上げ
■ クリップ/トリム:パラディウムプレート
■ サイズ/重さ:長さ:138mm (収納時)150mm (筆記時) 軸径:12.5mmφ 重さ:38g
■ 機構:カートリッジ/コンバーター両用式/キャップタイプ
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