Pilot Decimo Darkgrey Mica

    - ノック式万年筆 -

 1963年にパイロット社が世界で初めてノック式万年筆を発売した。
 私が中学に上がった時、その祝にと親から貰ったものがノック式万年筆だった。40年近くも前のことになる。学生服の胸ポケットに差していると、大人になったような気がして嬉しかった。残念ながら、その万年筆はいつの間にかなくしてしまった。親不孝者である。
 その辛い思い出のせいか、私はノック式万年筆を敬遠していた。5年ほど前、電話を取りながら相手を待たせて万年筆のキャップを外してメモをとることがあった。こんな時、あの万年筆があればなぁ...とふと思い立ち、今はキャップレスと呼ばれているこの万年筆を購入した。
 京都では、セーラー万年筆なら伊勢丹、パイロットは高島屋である。昔は、街角の小さな文房具屋さんがたくさんあって、万年筆もそこで贖うことができた。時代の趨勢で、万年筆が高価な嗜好品となった今、比較的値の張らないこの万年筆は私にとって懐古的な蒐集の一つになってしまうかもしれないという思いがあったが、実際にはそうではない。実用として実に便利な万年筆だ。

    - 手軽に使える便利ツール -

 この万年筆は、他の万年筆を入れているペンケースとは違って、所謂筆箱式ペンケースに入れている。ジッパー開閉でざっくりと色々な物が入る。中には、シャープペンシル、その替え芯、ボールペン、ノック式消しゴム、蛍光マーカー、定規などを入れている。このペンケースさえあれば、どのようなシチュエーションでも筆記には困らない便利ツールの集まりなのだ。デシモも私にとっては、便利ツールだ。
 日常だけでなく、旅行に出かける時、デシモは必需品だ。さっと出してすっと書ける。目的地が見当たらなくて、電話で道順や目印などを聞きながらメモを取る。キャップを落とす心配がないので安心して使える。
 デシモが便利な理由は、もう一つある。万年筆には、この角度、このペンポイントが一番気持ち良く書けるというスウィートスポットがあるが、デシモはそのスウィートスポットが広い。まるでボールペンか鉛筆のようでありながら筆圧をかけずに軽く書けるのだ。

    - キャップレス万年筆 -

 パイロットのキャップレス万年筆には多くのタイプがある。私がデシモを選んだのは、他に比べてボディが細いからだ。他のタイプより一回り細くて手軽さ感がある。あくまで手軽にかつ気楽に使える。これが私のキャップレス万年筆に持っているコンセプトだ。
 手軽にといっても妥協はしたくない。ペン先は18金で柔らかい方が良い。ボディの色は日常に溶け込むグレーが良い。
 パイロットのキャップレス万年筆は、その機構も優れている。ペン先を収納する時は、シャッターという仕掛けがペン先が繰り出される穴を塞いで埃が入るのを防ぎ、ペン先が乾かないようにする。ボディの中には、カートリッジを守りながらペン先まで続くパーツがある。
 世界的に有名で日本が誇れる技術が、この値段で良いのかと余計な心配をする。ボディなどが大量生産であることは知っているが、ペン先の最終段階の調整は、人の手によるものであることも知っている。パイロット社には敬服する。

【ペン先・機構等】

 ■ ペン先 : 18金 文字幅 M
 ■ サイズ : 長さ 約140㎜(収納時) / 約137㎜(筆記時)軸径約12mmφ
 ■ 重 さ : 約21g
 ■ 機 構 : ノック式 カートリッジ/コンバーター両様式
 ■ 仕 様 : <軸さや> アルミ 塗装 <ヘッドクリップ> ステンレス+特殊鋼
          <ノブ> 黄銅・ロジウムメッキ

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