Meisterstück 144

    - 不埒な理由で手にした一本 -

 マイスターシュテュックの末っ子である「144」を手に入れたのは、今から30年ほど前のこと、149や146を手にしてから後のことだった。デパートの万年筆売場に並んでいたモンブランのフラッグシップ、マイスターシュテュックが他の万年筆とは別格のところに陳列されていて、144がその片隅に遠慮がちに小さく佇んでいた。異彩を放って目に飛び込んでくるのは、やはり149であり威風堂々とした姿に他を圧倒する力強さがあった。
 149を2本、146を1本使っていて、すっかりマイスターシュテュックの虜になっていた私は、その当時、あとは144さえ手に入れれば、「揃う」という単純な征服欲だけでこの小さな144を購った。そんな不埒な理由から手にしたものだから買ってから当面は使っていたが、暫くするとあまり手に取ることもなくなった。実際、昔のノートを見てみると太く大きな文字ばかりが並んでいて、この細字の筆跡は見当たらない。ペンケースには入れていたものの最近までは引き出しの奥の方に入れていた。
 細くて華奢な外観が若さゆえの無骨な手には、繊細すぎたのかもしれない。この年齢になって、優しく扱えるようになった気がする。

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    - 何故か廃盤に -

 残念なことに、今この144はモンブランのショーケースから姿を消した。売り出された当時、この万年筆の評判は悪かったと聞いている。その年の万年筆を評価する「ペン・オブ・ザ・イヤー」ではワースト1だったとか。理由はインクフローが悪いとか、ペン軸内でインク漏れするだのことだったらしいが定かではない。後継の145も売り出されたらしいが、今はそれを見ることもない。モンブランが何故廃盤にしたのか、その真意は分からない。しかし、廃盤にしなくても良かったのではないかと今は思う。

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    - 蘇った逸品 -

 最近は細字万年筆をよく使う。太字や中字と同じくらいの頻度で使う場面が増えて来た。ここ数年は、購う万年筆も細字が多い。そんな時、ふと思い出したのがこの144だった。恥ずかしくも「忘れていてごめんね」という思いを抱きながら、古いインクカートリッジを抜いてよく洗浄し、普段使いにすることにした。

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 購入した当時、店員さんがこの万年筆はカートリッジインクしか使えませんと言ったその言葉を信じて今でもカートリッジ式のインクしか入れない。コンバーターも使えるのだろうが、何故か律儀に店員さんの言う通りにしている。
 細身の同軸は小さな文字を書くのに適している。ペン先も柔らかく、何故この万年筆が「悪い評判」だったのか分からない。ただ、私にとって(これは昔からのことだが)モンブランはインクがいただけない。使おうと思い立った日に早速カートリッジインクを買い求めたが、入れてみると案の定、気に入らないブルーブラックだった。名前はミッドナイト・ブルーという小洒落たものに変わっていたが、これがモンブランの目下のブルーブラックだ。事情は省略するが、てんやわんやして見つけたのがカヴェコのカートリッジインクで、これが気に入った。淡いブルーブラックがうるさくなく、手帳を文字で埋め尽くしても綺麗に写る。長年眠っていた万年筆が息を吹き返して、これからは活躍してくれるだろう。

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