Visconti limited edition Opera master demo Rainforest
そんな店と言っては失礼だが、万年筆の紹介雑誌と言っても許されるだろう「趣味の文具箱」に京都の万年筆店として毎回紹介されている。私が文明商社を訪れたのは、父に連れられてのことだった。「万年筆を買うなら、ここだよ」という万年筆愛好家であった父のお墨付きの店だった。亡くなったご主人と店を訪れては、長い時間万年筆談義をしていたことを覚えている。
最近といっても、もう20年以上の付き合いになるが、私は時折、文明商社を訪れる。仕事があるので、なかなか週3日の営業日に行く機会はないが、京都駅あたりに用件があって、時間のある時などは、ふらっと立ち寄る。愛想の良い女将さんがいつも相手をしてくれる。

学生がシャープペンシルの芯かボールペンでも買いに来そうな見かけだが、万年筆に関しては、京都の老舗中の老舗だ。
この日も、セーラー万年筆の長原宣義さんの作品を見せながら、「息子さんのもありますけど、やっぱりお父さんのとはちがうねぇ」と言って、適切な評価をしてくださる。万年筆をよくご存知なのだ。
このヴィスコンティのレインフォレストもそんな、ふらっと立ち寄った時に出会った。いつも「こんなんありますけど、売れへんし、メーカーに返そかおもてましてん」と言いながら凄い万年筆を出して来てくださった。長原宣義さんの傑作と迷ったが、何故かこのビスコンティに惹かれた。
文明商社はカード払いができない。いつも10万以上も持ち歩いていないので、店を遅くまで開けて貰って、近くのATMでお金を引き出して買った。定価は10万5千円だったが、「5千円なんか、よろし」との言葉を甘えて、まけて貰った。長原さんのもそのような値段だった。
この万年筆の印象は、「なんて重いんだ」が一番に来る。キャップをポストすると60グラムの重さ。モンブラン149が重さ約32グラムだから、大型万年筆を2本持っているのとほぼ同じ重さだ。私は、キャップをしないで、本体だけでこれを使うことにした。ニブはFなので、普通の字ややや小さめの字を書くのには、これくらいの重さと長さがちょうと良い。それと、ビスコンティはオペラシリーズは他にもいろいろ世に出しているが、このレインフォレストは他のオペラとは一線を画した迫力と美しい魅力を持っている。
特徴はインクの吸入機構だ。ダブルタンク・パワーフィラーという機構だが、平たく言えば、バレルの中をピストンを引き抜いて、押し込むときに一時的に真空にし、一気にインクをバレルの中に吸い込む。これは、見ていて圧巻だ。カシャっとピストンを押し込むと一気にインクが入る光景は、インクを吸入する時だけ見るのだが、面白い。
ところが、一度に入るインクの量が多いので、なかなかインクを入れる機会がない。インクの消費量は他の万年筆と同じでもインクを入れる機会は3分の1ほどだと思う。推測だが、2CCくらいは入っていそうだ。

万年筆は、毎日使う。使わない日は1年に数日だろうと思う。しかし、多くの万年筆の中で、この一本は書く道具としてだけではなく、観る楽しみを与えてくれる。ペン先の柔らかさにも魅力を感じる。すなわち、書いて良し、観て良しの万年筆なのだ。重いが、私が持ち歩くペンケースにモンブラン149の2本と一緒に入っている。
■ ペン先 : 18金 / 文字幅 : F(細字)
■ 機構 : ダブルタンクパワーフィラー方式
■ 長さ : 156mm(収納時) / 約189mm(キャップ嵌合時) 軸径最大:約15mmφ
■ キャップ径 : 最大:約16mmφ (クリップを除く)
■ 素材 : アクリロイド / プラチナプレートコーティング
■ 重さ : 本体 約40g / キャップ約20g 計60g
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