GRAF Von FABER-CASTELL PERNUMBUCO Mechanical Pencil

    - 侮れないツール シャープペンシル -

 例えば、会議などで資料を配られて、その資料に書き込みをしたくなる時がある。
 会議中なので落ち着いて書き込める暇はない。そんな時、後でゆっくり清書をして自分の資料として残しておこうとすると、シャープペンシルが役に立つ。細かな文字で書き込んでそのまま鉛筆書きで残しておく時もある。



 文具コンサルタントの土橋正氏がドイツ・ラミー社の現会長ドクターラミー氏にインタビューをされた際、
 「これまで手がけてこられたペンの中でご自身が一番好きなペンはどれですか?」と尋ねると、ドクターラミーは3つ上げさせて欲しいと前置きをして、筆頭にあげたのが、ラミー2000ペンシルだったとのことだ。
 (土橋正ブログ:「文具で楽しいひととき」より)



 インタビューの話は興味深く続くのだが、私がこの記事を読んだ時、まず思い浮かんだことは、シャープペンシルも万年筆のように使えるのだということだった。
 学生の頃は、指にペン胼胝ならぬシャーペン胼胝ができるほど、カリカリと力を入れてノートに筆記していた。万年筆も使っていたが、万年筆のように力を抜かず、握りしめて紙に黒鉛を削り込ませるかのように高い筆圧で書いていた。シャープペンシルを握るとどうにもその癖が抜けず、例によって例の如く芯を押し付けるように書いてしまう。

 その癖が抜けたのは、土橋正氏の上の記事を読んでからだ。ドクターラミーもきっとそのように同じラミー2000を35年間も使われていたのだろうと思いを馳せながら、万年筆のペン先を紙に滑らせるように書いてみた。すると、予想に反して墨色の濃淡や太さも全く同じように書ける。以来、今ではシャープペンシルを消しゴムで消せる便利な万年筆と思って使っている。



    - ファーバーカステル ペルナンブコ 0.7㎜芯 -

 ドイツに赴いた時、友人への土産にと思ってシャープペンシルを探したことがある。私が探したのはフランクフルトのデパートや文具店だけだが、シャープペンシルが見当たらなかった。万年筆やボールペンはショーケースに陳列されていたが、シャープペンシルはどの店にも無かった。我が国では、様々な機能を備えたシャープペンシルが売り出されていたので、かの国でもそうだろうと思っていたのだが、当ては大いに外れた。



 帰国後、妙な話だが、日本からファーバーカステル社のシャープペンシルを注文して手に入れた。バイオリンの素材に使われるこのペルナンブコのボディは、いかにも鉛筆メーカーが作ったものらしく、よく手に馴染む。シャープペンシルとしては高価だが、一生ものだと思えば、愛着も湧いてくる。
 この記事の最初に記したように、他の万年筆とセットでペンケースに入れて使っている。

Fude-pen

    - 和の趣 -

 机の上に置いていて、ほっとするものがある。人によってそれぞれそんな物が一つや二つは必ずあると私は思う。気が多い私にはそれが一つや二つではない。いくつもある。
 そんなものの一つが、筆と硯だ。とくに硯には、何か人を和ませる穏やかな精神性というか品格というか、とにかく、無機質な物ではない何かを感じる。デスク周りには洋物が多い私にとって、「和」を想わせてくれるところがほっとする要因かもしれない。
 硯は何面か持っている。父に貰ったものと自分で購ったものだが、どれも形や装飾に魅力がある。硯ごとに硯箱を用意するのも楽しい。我が国には道具を大切にする文化が昔は根付いていた。器に文化があった。

    - 京都 岡重の筆ペン -

 硯のことは、また機会があれば下手な講釈を垂れるとして、ここからが本題。筆ペンの話だ。大きなファイルの背表紙や掲示物に文字を書くときには、筆ペンを使う。職場や出先では、墨と硯を用意して書くわけにはいかないことが多い。そんな時、太い線も細い線も自在に書ける筆ペンが役に立つ。この筆ペンに出逢うまでは、万年筆の形をしたクリップ付き筆ペンを携帯用にしていたが、どうも違和感があった。その形や重さがどうも、和の筆にそぐわない。



 何年か前に京都伊勢丹で催し物があって、その時発見したのが、この岡重の筆ペンだ。試し書き用の和紙も置いてあって、試してみると、なんとも軽くて書き味が良い。即決で朱色の一本を購入した。岡重さんは、この筆ペンを入れる更紗の筆入れを主眼に作ったらしいが、そこは京都の職人のこと、中身の筆にも古き良き京都の伝統文化を大切にしようと特別に筆も作ったらしい。



 ペンのボディは軽くて丈夫な合成樹脂(ポリプロピレン)に漆を塗ったもの。穂先は、ぺんてる社が特別に作った合成樹脂で、これが、一本数百円で販売されているものとは違い、極めて細くて柔らかい。イタチやタヌキなどの獣毛で作った穂先と全く遜色がない。
 筆管の握り心地といい、穂先の感触といい、私はすっかりこの筆ペンが気に入って、一週間後にもう一本、黒軸のものを買い求めた。



 朱色の方は自宅使いに、呂色の方は職場に置いて必要な時に取り出して使う。墨と硯を用意する時間と必要がない時には、実に便利であり、書く時に筆の趣を十分に楽しめる。

  リンク:京・老舗「岡重」
  リンク:小宮真由さんのブログ「大人の文具」

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