Fude-pen

    - 和の趣 -

 机の上に置いていて、ほっとするものがある。人によってそれぞれそんな物が一つや二つは必ずあると私は思う。気が多い私にはそれが一つや二つではない。いくつもある。
 そんなものの一つが、筆と硯だ。とくに硯には、何か人を和ませる穏やかな精神性というか品格というか、とにかく、無機質な物ではない何かを感じる。デスク周りには洋物が多い私にとって、「和」を想わせてくれるところがほっとする要因かもしれない。
 硯は何面か持っている。父に貰ったものと自分で購ったものだが、どれも形や装飾に魅力がある。硯ごとに硯箱を用意するのも楽しい。我が国には道具を大切にする文化が昔は根付いていた。器に文化があった。

    - 京都 岡重の筆ペン -

 硯のことは、また機会があれば下手な講釈を垂れるとして、ここからが本題。筆ペンの話だ。大きなファイルの背表紙や掲示物に文字を書くときには、筆ペンを使う。職場や出先では、墨と硯を用意して書くわけにはいかないことが多い。そんな時、太い線も細い線も自在に書ける筆ペンが役に立つ。この筆ペンに出逢うまでは、万年筆の形をしたクリップ付き筆ペンを携帯用にしていたが、どうも違和感があった。その形や重さがどうも、和の筆にそぐわない。



 何年か前に京都伊勢丹で催し物があって、その時発見したのが、この岡重の筆ペンだ。試し書き用の和紙も置いてあって、試してみると、なんとも軽くて書き味が良い。即決で朱色の一本を購入した。岡重さんは、この筆ペンを入れる更紗の筆入れを主眼に作ったらしいが、そこは京都の職人のこと、中身の筆にも古き良き京都の伝統文化を大切にしようと特別に筆も作ったらしい。



 ペンのボディは軽くて丈夫な合成樹脂(ポリプロピレン)に漆を塗ったもの。穂先は、ぺんてる社が特別に作った合成樹脂で、これが、一本数百円で販売されているものとは違い、極めて細くて柔らかい。イタチやタヌキなどの獣毛で作った穂先と全く遜色がない。
 筆管の握り心地といい、穂先の感触といい、私はすっかりこの筆ペンが気に入って、一週間後にもう一本、黒軸のものを買い求めた。



 朱色の方は自宅使いに、呂色の方は職場に置いて必要な時に取り出して使う。墨と硯を用意する時間と必要がない時には、実に便利であり、書く時に筆の趣を十分に楽しめる。

  リンク:京・老舗「岡重」
  リンク:小宮真由さんのブログ「大人の文具」

Inkwell

    - 神戸北野で出逢ったインク壷 -

 1985年6月21日に、私はこのインク壷と出逢った。
 神戸北野の異人館巡りをした帰りのこと、骨董屋さんというわけではないが、色々な雑貨を置いている店に立ち寄った。
 たくさんある異人館の元住人が帰国の際、故郷には持ち帰らない品々を処分同然というか、かなり安価な値で付近の行商に譲ったらしい。棚や机などの家具は、家に付属している、言わば家の一部と考えるのが欧米の人たちである。それらの家具類は今や観光客の目の保養の的になっている。
 異人館といっても、元々は国の大使をはじめ、高い地位にあった人たちの住居である。今も残っている館とその付属家具以外にも、当然、小さな生活雑貨が多数あった。

 私は幾度か北野に足を運び、いくつかあった先の雑貨屋さんを覘いては使えそうな万年筆を物色していた。10本近い万年筆を購うことができたと思う。そんな時、とある店でこのインク壷と出逢った。それほど値の張らない品だったので、気軽に手に入れたのだが、日に日に魅力を感じるようになり、以来、私の机の上にはいつもこのインク壷がある。
 たまに、インクを入れてはスチールの付けペンやガラスペンでゆったりと手紙や葉書を書いている。何分長い付き合いなので、そこにいてくれるだけでほっとする存在だ。

 ちなみに、私がこのインク壷を購った日付が正確に分かるのは、当時は、こうした品物には手に入れた日が分かるように、日付を書いた紙を裏に張っていたからだ。その紙のインクの色は褪せているが、はっきり日付が分かる。

 最近も北野に出かけることはあるが、風情はすっかり変わってしまった。

 ■ 仕組:二つのインク壷はそれぞれ4つの素朴な金具で挟まれている。
            簡単に抜いて水洗いすることができる。
            ガラス以外の部分の素材が何かは分からないが、ずっしりと重い。

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Tag & Sticky Note

    - coco fusen -

「ふせんはいつもココにいるよ」というアフォリズムで売り出されたこの付箋は、昨年グッドデザイン賞を受賞した。株式会社カンミ堂の逸品だ。
小さくて可愛い付箋だが、なかなかの機能を持っている。順に言うと、この付箋はケースごとに貼付けられる。(写真左上)ケースから取り出すと、次の1枚が取り出せるように上下交互に出てくる。つまり、ティッシュペーパーの要領だ。
 ケースの中で蛇腹に粘着部分が重なっている。下の写真のピンクの付箋は下が出ている。次の利点は、その薄さと粘着性だ。極めて薄く小さいので、何枚張ってもページの邪魔にならない。また。粘着性が高いので、栞の役目を十分に果たす。(写真中央左)透明度が高いので、付箋を張っても下の文字が見える。(写真右上)
 私は上にあげた機能を使って、ノートや本の整理と目印にしている。他にもこの付箋はボールペンか鉛筆でなら文字を書くことができる利点があるが、その機能は利用していない。それらの筆記具を使う人にとっては、便利な機能だと思う。
 私がこの付箋が気に入っている理由のもう一つは、無地であることだ。似たような付箋があっても、色々な柄や模様、何かの絵が描かれている。それが、私には邪魔だ。やはり、無地が良い。4色あれば、十分に整理や目印になる。もっとも、よく使うのはグレーとピンクだ。重要度に合わせて、自分なりに色を使い分ける。

    - My Post-it -

 <ウィキペディアより引用>
最初の糊付き付箋製品であるポスト・イット (Post-it) はアメリカの化学メーカー3Mによって開発された。1969年、同社の研究員スペンサー・シルバーは強力な接着剤を開発中に、たまたま非常に弱い接着剤を作り出してしまった。当初この弱い接着剤は用途が見つからなかったが、1974年に同社研究員アーサー・フライが本の栞に応用できないかと思いついた。このエピソードは、偶然から大発明を生む「セレンディピティ(偶察力)」の典型例として知られる。1977年には試作品が完成、テスト販売では当初苦戦するが、大企業の秘書課に配られた試供品が好評を博し、1980年の全米発売につながる。それ以降、ポスト・イットは世界中に広まり、現在では100ヶ国以上で販売されている。

 ポストイットの歴史には感慨深いものがある。今や付箋といえば、ポストイットと言っても通るくらいになった登録商標だ。
 我が国では、数年前から住友スリーエム社がこのポストイットをオンラインでカスタマイズできるシステムを作った。ポストイットと言えば黄色が定番だが、自分の好きな色に好きなデザインを付すことができるシステムだ。3年ほど前に試しに作ってみたが、なかなか使い勝手が良い。自分の名前があらかじめ入っているので、メモを誰かに渡すときにも自分からだと分かってもらえる。(写真中央右)それまでは、シャチハタでハンコを押していた。
 専用ケース(写真下)も作られるようになって、ポケットに入れていても散けることがなくなったので、ちょっとした自分用のメモにも使える。このちょっとしたメモが役に立つ。手帳に書くまでもないが、例えば、この数字は一時的にメモしておきたいと思う時など、普通のメモ用紙なら失くしてしまいそうになるところが、その心配がない。
 たかが付箋、されど付箋だ。ビジネスシーンにほんの少し余裕と楽しみを加えてくれる。

■ それぞれの画像をクリックすると拡大されます。

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    - 万年筆のT P O -

 仕事でも、旅先でも常に何本かの万年筆を持ち歩く私だが、それは、文字を書く上でのTPOというものを私なりに持っているからだ。
 大人数の会議などで多くの人目に曝される時の万年筆は、真面目に記録を取っているように威圧感のあるペリカンの大きなブラックボディを。少人数の会議でメモを取る時は、あまり威圧感のない普通サイズの万年筆を使う。後者では、主催でない限り、こっそりと書くことを楽しむために色々な万年筆を使う。
 旅先で手紙を書く時は、その地の様子や景色、私が受けた心象風景などが伝わるように万年筆を選ぶ。葉書に書くか、便箋にしたためるのか、どちらが私の想いを伝えるのにふさわしいかを考える時、その葉書なり便箋なりを受け取った相手の顔を思い浮かべる。
 しかし、一つ困ることがある。せっかく今日はこの万年筆だと決めて、書き始めると途中でインクが無くなってしまうことがある。万年筆まわりのことには気を配っているつもりだが、時々、そういう失敗をする。
 かといって、常にインクボトルを持ち歩く訳にはいかない。職場にはインクボトルを置いているが、会議室まで持って行く訳ではない。仕方なく、ペンケースの中の別の万年筆を使うことになる。
 旅先では、たっぷりインクが入っているつもりで持って行った万年筆がインク切れを起こすことがある。多くのことを書いているうちに無くなってしまうこともある。そんな時に役立つのがトラベルインクポットだ。

    - ビスコンティのインクポット -

 私は、インクポットを2つ使っている。その一つが、ビスコンティのトラベルインクポットだ。6、7年前に購入したが、箱もイタリアらしいデザインが気に入っている。インクポット自身のデザインはシンプルだが、飽きさせない気品がある。
 使い方は、インクポットに付属のスポイトでインクを入れて、差し込み式のキャップを閉める。インクポット内部は、ペン先を差し込んだ時にインクが漏れないように円錐の形をしたゴムが張ってある。ペン先を差し込んで、インクポットが上になるようにひっくり返してインクを吸い込む。お医者様が注射器に瓶から薬を吸い込む時の様子を思い浮かべて貰えば、そのとおりである。
 キャップには小憎らしい工夫がある。実際には私は使わないが、キャップの上部がまたキャップになっていて、それを外すとペン先に付いた余分なインクを拭き取るスポンジが現れる。至れり尽くせりだが、これがイタリア職人の遊び心かなとも思う。

 長さは、普通の万年筆より少し短く、太さは大型万年筆より少し太い。
 大きなペンケースにならすっぽり入る。

Visconti Travel Inkpot

Visconti Travel Inkpot

Visconti Travel Inkpot

    - 私の必需品 コクヨレポート用紙 -

 以前から「スタイル」のページをリニューアルしようと考えていたが、いよいよリニューアルに取りかかることができた。このホームページは「万年筆」の紹介がプライマリーコンセプトだが、写真やブログのページも備えている。しかし、万年筆以外のブログはあくまで付属だと考えている。私にとって、最も難しいコンセプトがこの「スタイル」のブログだった。当初は、様式美を紹介しようと意気込んだが、無謀だった。今から考えるとそれだけで、メインのホームページが作れそうだ。
 新たに考えたコンセプトが、文房具を中心にしたブログだ。「これなら、身の回りにあるものをページにアップして、自分で見て楽しむことができる」、そう考えた。

 前置きはこれくらいにしておき、本題に入ろう。私にとって文房具の中で一番大切なのは、(万年筆を除いて)ライティングペーパーだと思う。書く獲物は万年筆であったり、鉛筆やボールペンも使う。ペンケースや手帳、スティッキーなども自分用に集めて楽しい。でもやはり、このスタイルの最初の記事は、ライティングペーパー、コクヨのレポート用紙だ。

 私は、万年筆を楽しむ時、いつもこのライティングペーパーを使っている。A4の用紙一杯に、もう書く隙間がないと思うまで書く。コクヨのレポート用紙が万年筆のインク滲みの具合やペン先の感触などが、他のライティングペーパーや便箋、手帳、ダイアリーなどの基準になる。従って、ペン先を調整していただくペンクリニックなどには、必ずこのレポート用紙を持って行く。万年筆店のお試しセットの紙は、インク滲みが良く、線が太く書ける。この方が、客には書き易くて買う気にさせるからだ。ペンクリニックで、そんな紙に書いても本当のペンの調子は分からない。

 最も大切に思っているのは、値が安くて、いつでも手に入ることだ。コクヨのレポート用紙はコンビニエンスストアにも置いている。少々乱暴な使い方をしても、気を使うことがない。
 横に置いていて、暇ができれば万年筆で落書きをする。私の最も消費量の多いライティングペーパーだ。 

 6㎜罫(青表紙)と7㎜罫(赤表紙)がある。  

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 これでもまだ、3分の2使った程度。最初は行儀よく書き、
あとは空白を使ってランダムに書きつぶす。

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