DELTA Dolcevita Medium

    - 購入時のこと -

 南イタリアの太陽の色、デルタドルチェビータ。私がこのように色鮮やかなボディの万年筆にdelta10惹かれたのは、後にも先にもこの一本だけだった。およそ10年ほど前のこと、
何か知ら、その時の生活に倦んでいたのだと思う。忙しいとか暇だとかというのではなく、平坦に過ぎていく毎日に心の中で焦燥感のようなものが澱のように沈んでいた。日常を変えることは意外に難しい。
 「たかが万年筆、されど万年筆か」と思い、この一本を購入した。もちろん、ドラスティックに日常が変わる訳ではなかったが、期待が裏切られたと言い切ることも無かった。引き締まった黒の中に、ボディのオレンジ色を見るたびに灯火のように心の奥を照らしてくれる気がした。
 会議などで、この万年筆を使うことは、ペンケースから取り出す時点から気恥ずかしい思いをさせる。日頃の私の装いからして、この万年筆は明らかに不釣合だ。予想通り、何人かの気の置けない友人から、「今日は万年筆が違うのだね」と、少し揶揄するかのように然りげ無く指摘された。しかし、それが却って私には心地良かった。何か思い切ったことをしたような気がした。「されど万年筆」だったのだ。

     - ドルチェビータ -

 フェデリコ・フェリーニの映画に同じタイトルの作品がある。"La dolce vita(甘い生活)"
だ。1960年に公開された映画のタイトルを万年筆のネーミングに用いたデルタ社には、ある思惑があったのだと想像する。マルチェロ・マストロヤンニ演じるマルチェロのイタリア上流階級の贅沢で退廃的な生活を特別な手法で描いたこの作品は、当時の映画の各賞を独占したと言える。しかし、50年経った今でも、その映像手法には賛否両論がある。1982年に創業したデルタ社は、万年筆メーカーとしては新参者だった。1997年にドルチェビータミニを発売した時、ある意味で、万年筆メーカーとして世界に名を馳せることができるのか、勝負に打って出たのだと思う。イタリアが誇る映画監督の最も有名な作品の名を、たとえ賛否両論があっても敢えて使用することで・・・。
 2年後にこのミディアムサイズを発売し、デルタ社は世界的に有名になり、思惑どおり世界の万年筆メーカーとしての地位を得た。ドルチェビータは、メーカーのフラッグシップとなったのである。
 この万年筆は一度廃盤になったことがあるが、すぐにペン先を14金にして復活した。復活後は様々なタイプのドルチェシリーズを世に出している。

     - その仕立て -

 鮮やかなオレンジ色のレジンを一本一本削り出して、テーラーメイド・イン・イタリーをコンセプトに手作りで生産されている。純銀のキャップリングも手作り感が溢れている。軸は太く、首軸まで太いままの形でいて円筒ながら横から見れば直線的なフォルムだ。太い首軸から繰り出されているペン先はペン芯が薄いので、軽妙で柔らかな質感が印象となる。見ていて楽しい。
 キャップクリップの反対側、つまり裏側には、「製造番号/ITALY」が描かれている。私が何より感心したのは、このキャップリングの小さな細工だ。ペンを置くと、キャップリングに施された工夫によってペンが転がらない。ペン先を上に向けたまま動かない。
 デザインを見せるための拵えに、あくまで手を抜かないイタリア職人ならではの気質を感じる。

     - 写真について -

 スライドショー1枚目(この記事のタイトル画像)の写真は、サントリーが開発したブルーローズ・アプローズと共に撮った。写真では、光の質や光量などで肉眼で見るのとは異なる色合いになることがあるが、私のPCで見る限り、この色合いが実際の色そのものだ。
 スライドショー6枚目の写真は、サイドデスク上で撮ったものだ。気に入っているモンテグラッパのインクボトルを持ち上げて移動させたところ、ボトルの中で偶然にできたインクの波紋を写すことができた。
 上の写真は、私がこの万年筆を購入した当時のデルタのホームページのタイトル画像だ。


【ペン先・機構等】

■  ペン先:18金 文字幅:M
■  ボディ/キャップ:レジン / シルバー925
■  サイズ/重さ:長さ:135mm (収納時)168mm (筆記時) 軸径:16mmφ 重さ:33g
■  機構:カートリッジ/コンバーター両用式/キャップタイプ
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