Pelikan M120 Green-Black

  - Pelican sent me an article concerning M120 -

  I bought this fountain pen, M 120 Green-Black Pelikan, one day just around two years ago in the early summer, 2016. I knew the Pelikan would launch a retro design pen that would be a facsimile edition of the old M120 the Pelikan put out into the world for the first time.
  Because I've never seen the old model, 1955 M120, it is still uncertain that the new model is the exactly the same as the old one. GreenB;ack10.jpg But according to the article sent from the Pelikan on the Internet, they would reprint the old M120 with the same design, material, and gold plate stainless steel nib.








  Only the differences are that they would adopt piston inhale mechanism and engrave the pattern of 1889 price catalog on the nib plate. Anyway I got to know all about this in the spring of 2016 and completely was fascinated with shape, form and the two-tone color, green and black. What a beautiful and lovely pen!
  I waited impatiently the day I would see and buy (probably). If the writing condition of the pen is too bad to buy, all I should do is to just resign. That's all. However, I was not afraid about that. It's "Pelikan".
  At last I met the M120 Green-Black at the pen shop. It was just as expected, no, more than as expected. I tested the writing condition of EF nib. It was good. And as I expected I bought it. From then, I use it in my daily life, writhing diary, taking note of what I get interested in, calligraphy and so on.

    - レトロ感を醸し出す現代の万年筆 -

Greenblack11.jpg
 この万年筆を買ったのは、ちょうど2年前の初夏の頃だった。その年の初めにペリカン社から新しくM120を売り出すとの案内メールが送られて来て、ブラウザで記事を見てみた。まず落ち着いた色のグリーンとブラックに金色のトリムが美しいと思った。以前、このブログでも言及したが、このグリーンは、ジャガー車のグリーンでとても落ち着いている。
 1955年、ペリカン社が初めてM120を発売したときの復刻版らしい。スーベレーンM800やM1000そしてM400を何本も所有している。私がペリカンの愛用者であることは自他共に認められていると思う。
 このM120は先に売り出されたM101Nのトータスシェルブランやリザードとは全く趣が違う。M101Nの軸のレトロ感も良いが、M120はペン先が金ではなく金色に鍍金されたステンレススティールなので、求め易い価格であることも評価できる。ピストンフィラーであることと、ペン先の刻印(1889年のペリカン価格表の模様らしい)も洒落ていて好感が持てる。
 ちょうど、嗜好が中字から細字へと変わりつつあった時だったので、この細身の万年筆のFかEFあたりなら買い求めても良いと思って、試筆してみた。
CafeCreme09.jpg
 ペン先の紙へのあたりに硬さは感じるものの、思う線が書ける。筆圧の加え方で、日本語のトメ・ハネ・ハライも表現できる。試筆後すぐにこれを購った。
 スーベレーンの柔らかさでもなく、トータスシェルブランやリザードの柔腰でもない、独特な弾力を持った硬さが普段使いに重宝するペン先だ。メモ書きや日記に細かな字を書く時、書にも使える。

■ ペン先 : 24金プレートスチール /  文字幅 : EF
■ 機構  : 吸入式
■ 長さ  : 130mm(収納時) /  約150mm(筆記時)  軸径最大:約13mmφ
■ キャップ径 : 最大:約13mmφ (クリップを除く)
■ 重さ  : 約14g

   Pelikan Classic 200 Café Crème

    - 南青山・書斎館で手にした一本 -

 夏に東京に出かける仕事があったので、書斎館に寄ってみた。いつもと変わらず、端正な佇まいで迎えてくれる。一年に1度か2度訪れるくらいだが、訪ねると必ず何本かの万年筆に惹かれる。オマスのアルテ・イタリアーノの復刻版が一番気に入ったが、ブルーがかっていた。外に出て確かめるとブルーがかっているのではなく、鮮やかなブルーだった。書き味は申し分ない。ボディーの色さえもう少し落ち着いていれば、躊躇うことなく買っていたと思う。
CafeCreme08.jpg  他にもう一本、デザインが綺麗な万年筆が目に止まった。ペリカンのカフェクリームだ。ペン先は他のペリカンM200と同じだろうと思いながら、試し書きをさせて貰った。思ったとおり、ペン先の調子は同じだ。これなら、買っても後悔しない。早速に使えるように、パイロット・色雫、茶系のインクを買って入れて、そのまま胸に挿して店を出た。
 近くのカフェに入って、持ち歩いているジョッターに試し書きの続きをした。インクフローが少し気になったが、何よりこのデザインにすっかり魅了されてしまった。ペリカン社が同じデザインでM800を出せば、きっと私のコレクションに入るだろう。

    - 思ったより、よく使うこの一本 -

CafeCreme10.jpg

 他のM200もそれなりに使うのだが、この万年筆もそれなりにと思っていた。やはりインクフローが少し気になったので、ペン先の切り割を裏からマチ針を差し込んで広げてみた。微妙な切り割の広がりでインクフローは自分の思うようになった。見た時から気に入っていたボディーのデザインだが、使い始めると思ったより煩くない。手帳の横に置いて眺めているのも楽しい。自然にこの万年筆をよく使うようになった。
 よく使うようになると、この万年筆に似合うインクを入れて、使う用途を決めたくなった。休日の日記はこの万年筆で書くことにした。
CafeCreme09.jpg






 そこで、思いついたのが、モンブランの限定インク「レオナルド・ダ・ビンチ」の"RED CHALK"だった。その名の通りの色で、楽しい赤茶色だ。時間が経っても色の変化はない。ダニエル・デフォーの緑も良いが、このレッドチョークも違った趣がある。

■ ペン先 : 24金プレートスチール /  文字幅 : EF
■ 機構  : 吸入式
■ 長さ  : 126mm(収納時) /  約149mm(筆記時)  軸径最大:約12mmφ
■ キャップ径 : 最大:約13mmφ (クリップを除く)
■ 重さ  : 約14g

   Pelikan Classic 200 Cognyac

    - M200 デモンストレーター -

 ペリカンのM200を初めて手にしたのは、今から20年ほど前のことだ。当時は確か黒の軸しかなかったように記憶している。スチールのペン先だったので、近くの文房具店から日本の万年筆メーカーにペン先の角度と滑らかさを調整してもらった。以来、少しの間使っていたが、次々と万年筆を手にするようになって、あまり使わなくなっていた。デモンストレーターが発売された時も買うには買ったが、やはりスチールペン先には何か劣っているという考えがあって、特別なインクを入れて使う以外にはあまり使うことがなかった。

M200s.jpg  デモンストレーターを手にしてから少し経って、インクの色が見えるのが楽しくて、よく使うようになった。細字には興味がなかったので、よく使うようになったとはいえ、やはり限られた場面にだけに使っていた。日記のメモ書きや、欄外の記入など、メインの記載には使わなかった。
 しかし、ここ数年前から細字万年筆をよく使うようになって、色々なメーカーの細字を集め始めた。海外のメーカーは、概して、ペン自体の大きさによって、同じFやEFでも太さが違う。私が求める細さは、ペリカンM400の字幅で、ペリカンの中では一番小さなシリーズの万年筆だ。M400は持っていたが、ペン先はMだ。そこで、M400と同じ大きさのM200に関心が向いた。
 デモンストレーターはFだったので、これをメインの記載に使うようになった。ふと昔買ったM200を思い出して取り出してみると、ペン先がFだったので、これも使うようになった。最近復刻版でゴールドトリムのデモンストレーターを購入したが、EFにしてみた。すると、好みにぴったり合うのがわかった。スチールのペン先も慣れてみれば、独自の書き味があって良いと思う。
 上の写真は、奥から
 1 Pelikan Souverän M405 Dark Blue 14K
 2 Pelikan classic 200 demonstrator Gold Trim
 3 Pelikan classic 200 Classic 200 Café Crème
 4 Pelikan Classic 200 Cognyac
 5 Pelikan Classic traditional 200
 皆、同じ大きさだ。
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    - M200 コニャック -

defoe_ink.jpg  2014年6月に、このコニャックが発売された。偶然、立ち寄った万年筆店でそれを見かけて、一風変わったデモンストレーターだなぁと思いながら、よく見てみると、「コニャック」という名前がついている。ペリカン万年筆の天冠が金色に変わってから、少し風情が変わって私のペリカン熱も冷めかけていたのだが、この万年筆は昔ながらの天冠で、風情もよく匂いも深かった。私はそれだけで書き味も試そうとせず贖う気になっていた。
 しかし、さすがに試し書きなしで万年筆は買えない。一度試し書きをさせて貰って、すっかり気に入った。2本あるうちの1本だったが...。
 最初は、私のオリジナルブレンドのブルーブラックを入れて使っていたが、時を同じくして、発売されたモンブランの2014年限定作家シリーズ、「ダニエル・デフォー」のインクが気に入った緑色で、3瓶購入していた。今は渋い緑色のダニエル・デフォーを入れてよく使っている。

■ ペン先 : 24金プレートスチール /  文字幅 : EF
■ 機構  : 吸入式
■ 長さ  : 125mm(収納時) /  約147mm(筆記時)  軸径最大:約12mmφ
■ キャップ径 : 最大:約13.3mmφ (クリップを除く)
■ 重さ  : 約14g

Pelikan Souverän M800 Brownstripes

    - 誘惑に負けて -

 ペリカンM800はこれで5本目になる。ペリカンスーベレーン・シリーズのキャップ天冠が以前の黒地にペリカンの図柄が付いていた頃は、これからも何本か贖うだろうと思っていた。しかし、いつからか今の金属製になってから触手が向かなくなった。少し、品格を失ったような気がしたからだ。時代の流れに、変化はある程度必然のものと思ってはいるが、事情はどうあれ、私にとってこのマイナーチェンジは、マイナーチェンジではなかった。

 少しばかりペリカン熱からさめていたのだが、茶縞が復刻された時に迷いが生まれた。よほどのことが無ければ、いくら茶縞でも手にすることはあるまいと一方では思いながら、どこか心の隅に澱のように沈んでいた。半年ほど前に、そのよほどのことが起こった。

 東京に所用があって行った折、ふといつも尋ねる万年筆店に立ち寄った。そこには、茶縞が7、8本残っていて、どれも縞の模様が違っていた。手作り感が一気に襲って来て、気がつけば「この中からどれを選ぼう」という心境になっていた。

    - 茶色のキャップと整った茶縞 -

 ペン先はEFと決めていたが、その店はペン先をいとも簡単に交換してくれるので、ボディに悩むだけのことになる。ペン先の良い物を選んだ後、ボディを選ぶ。ペン先は簡単にこれと思うものを見つけたが、ボディは悩んだ。縞がくっきり浮かび上がっているものと、縞と判別できないほどぼんやりと模様が入り混じったものなど、一本一本違っていた。結果は、最も無難な縞がくっきり浮かび上がっているものに決めた。 brownstripes10.JPG
 <ブログにこの正岡子規の句を書いている様子を載せました。→ ブログへリンク

 このEFは、ペン先の調整をしていない。最初から良い書き味だ。もっとも、それを選んだのだが。万年筆は軸の太さに比例して、同じMやEFでも太さが違う。M800クラスの太軸だとEFでもそこそこの太さがある。ペン先は太さが増すほどに、選ぶのが難しい。ニブの先のイリジウムを磨く作業は人の手になるもので、一本一本個体差が生まれる。調整をしていないこの万年筆は、最初から私好みの滑り具合だった。思う線が書ける。

 私の金属製天冠嫌いはいつまで続くか湧かないが、ボディとペン先の製作過程が変わらない限り、ペリカン熱は温度を低く保ちながらも引くことはないと恐れている。

 この茶縞。使っていて気づいたのだが、キャップが茶色なのだ。単独で使っていると分からないが、やや暗めの書斎で使うと他の黒のキャップとは明らかに違って茶色であることがわかる。上の写真の9枚目がそれだ。

■ ペン先 : ロジウム装飾18金 /  文字幅 : EF
■ 機構  : 吸入式
■ 長さ  : 142mm(収納時) /  約166mm(筆記時)  軸径最大:約13mmφ
■ キャップ径 : 最大:約15mmφ (クリップを除く)
■ 重さ  : 約28g

Pelikan th.INK Black

    - その設計 -

 ペリカンの新しい万年筆だ。長い歴史を持つペリカーノジュニアは、子供向けにペンや鉛筆を正しく持つ癖をつけるために作られた。筆箱に入れることを想定してクリップはない。そのペリカーノジュニアには、同社の長いインクカートリッジが入る。実は、私はこの長いインクカートリッジを他の万年筆によく使っている。ヨーロッパタイプの万年筆なら使える。
 そのペリカーノジュニアの大人版として売り出されたのが、このシンクだ。「趣味の文具箱vol.24」で紹介されてから、売れ行きは上々らしい。同誌では万年筆入門用として紹介されているが、ペリカーノジュニアと同様、この万年筆も立派に大人が実用として使える。ペン先はスチールだが、滑らかでストレスを感じない。三角形のボディもデザインとして面白い。これも正しくペンが持てるようにというコンセプトらしいが、軸径が程よい太さで、しかも長いのでグリップを強制されない。

 色々な角度で書いてみたが、60度に立てても30度に寝かせてもインクフローは変わらない。長い縦線を書く時に重宝するうえ、ノートの上部に書いていて、そのまま手を移動せずに下部に書くこともできる。しかも線の太さは変わらない。個体差はあるだろうが、私が3本の中から選んだ一本は、ペン先が丸研ぎに近く縦横一定の太さで書くことができる。

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    - 流麗なデザイン -

 何よりもボディのデザインが良い。三角形はオマス360があるが、こちらも書き心地がよい。シンクもそれに劣らず握っていて疲れない設計だ。指で握る部分には滑り止めのグリップが付いている。この部分のラバーがグレーなので、バイカラーのボディになっている。グレーではなく、バイオレットとのバイカラーもある。好みで選ぶことができるが、私はバイオレットは遠慮する。

 ボディで一番気に入っているのは、平坦なクリップだ。平坦なクリップは、アウロラ・アステルもそうだが、趣旨が違う。アステルはあくまでデザイン上のものだが、ペリカン・シンクはクリップの必要性が高くないから平坦に作ったのだと思う。
 クリップに2つのや役割がある。一つ目はその名の通り、ポケットに差すためで、もう一つの役割は机の上に置いたとき、丸いボディだところころと転がるのを防ぐためだ。三角形だと転がる心配はない。従って、2つ目の必要性はない。思うのだが、ペリカンもあくまでデザイン上このクリップをつけたのではないだろうか。実際、このクリップは恐ろしく固い。このクリップで胸ポケットに差そうものなら、生地を痛めそうで差す気にならない。

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    - デスクペンとして -

 総合して考えると、ペン字の練習用のために机の上に置いておくように、または、メモを取る時に使うようにデザインされたのではないだろうか。
 もう一つの特徴は、キャップの外し方だ。キャップは差し込み式だが、普通に外そうとすると一苦労する。説明書にも書いてあるが、このキャップは、クリップと反対側、つまり裏側を指で軽く押すと簡単に外れる。この仕掛けもなかなか面白い。
 私は、このシンクを机上のメモペンとして使おうと思っている。自分宛のメモには明るい色が良い。ペリカンのロイヤルブルーを入れている。

■ ペン先  : ステンレススチール 
■ サイズ  : F
■ 機構   : コンバーター、カートリッジ両用式、 / キャップ 嵌合式
■ 材質   : ボディ> ブラスラッカー仕上げ / トリム> ニッケルパラジウムプレート仕上げ
■ 長さ   : 約141mm(収納時)/ 約131mm(キャップを外した時)
■ 太さ   : 13.5mmφ  / キャップ径:12mmφ
■ 重さ   : 14g

Pelikan Souverän M101N Lizard

    - リザード柄に -

 2年前、ペリカンM101Nトータスシェルブラウンが発売された。そして今年は、その姉妹品のようなリザードが、ペリカン社創設175周年を記念してという名目で1月に発売を開始した。私は昨年12月に一足早く手に入れた。トータスシェルブラウンの作りが気に入っていたから、同じ拵えのリザードにも期待をして発売予告と同時に何とか早く手に入れたいと思っていたのだ。

 トータスシェルブラウンも一本一本ボディの模様が違ったが、もともと色が混じり合った柄なので、さほど違いが気にならなかった。しかし、リザードはボディ全体がモノトーンなので模様の違いが気になる。何本か手に取ってみたが、数本の縞模様がくっきりと入っているものがあり、それは遠慮したいと思った。

 ペン先は予想通り、トータスシェルブラウンと同じ作りでこちらはロジウムコートされている。クリップやキャップのリングなどのトリムもシルバーカラーで統一されて、全体をあくまでモノトーンに徹したのが今回のコンセプトらしい。私の好みだ。
 恐らくトータスシェルブラウンと同じ型を使ってペン先を作ったのだろうから、撓り加減の柔らかさと紙面に当たった時の感触がとても良い。筆圧の高い人には不向きな柔らかさだと思う。

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    - 確かな拵え -

 このシリーズで何より気に入っているのは、その軽さだ。ほぼ同じ大きさのペリカン・スーベレーンM600が約17グラムで、リザードは15グラムと非常に軽い。ボディが軽いとペン先の滑らかさが重要になる。筆記時に少しでも引っかかりやざらつきがあるとそれが具にボディから手に伝わって極めて不快になる。リザードは何本か試したが、どれもとてもスムーズにペン先が紙の上を走る。インクフローもちょうど良い。出過ぎず、控えめでもない。書き手の筆圧を感じてインクを出しているような正確さを感じる。特に今回購ったEFの細さであるとその感触は顕著だ。これはパイロットのファルカンと共通した特質だ。使用する場面にもよるが、私は気に入っている。

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    - たかがメモ、されどメモに -

 書き味が良くて、ボディが派手過ぎずに気に入っているなら、使い道は一つ、普段使いだ。普段使いにするには少し贅沢な万年筆だが、胸ポケットに収めておくと、気分までよくなる。そう思えば、贅沢も良しと言える。
 アシュフォードのジョッターと対にして使っている。たかがメモ、されどメモというのが私の困ったメタフィジックスだ。
  <次の石川桂郎の句は、左がトータスシェルブラウンF(ペリカン・ブルーブラック
  インク)、右がリザードEF(自分のオリジナルブレンドインク)で書いてみたもの。>

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    - ペリカン社の気遣い -

 トータスシェルブラウンとの違いは、本体だけではない。ペリカン社の説明にも態々書かれているように、リザード柄のケースに入っている。トータスシェルブラウンのボディを作る元のアクリルアセテートの延べ板を「おぼろ昆布」と称した人はいるが、言い得て妙だと思う。その「おぼろ昆布」をリザード柄に変えただけの手間を省いた分をこうした形で買い手に還元したのだと思えば、微笑ましくもあり、ペリカン社らしい誠実さも感じる。

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■ ペン先  : 14金 
■ サイズ  : EF
■ 機構   : ピストンフィラー 吸入式 / キャップ ネジ式
■ 材質   : ボディ> アクリル・アセテート / トリム> 14金 ロジウム仕上げ
■ 長さ   : 123mm (収納寺)/  約156mm(筆記時)
■ 太さ   : 11.5mmφ  / キャップ径:約13.5mmφ
■ 重さ   : 15g

Pelikan Souverän M101N Tortoise Shell Brown

    - 2011年6月 -

 この万年筆は、私がこのホームページを立ち上げた時、2011年6月に購入したものだ。テストの記事を除いて、初めて"Blog"の記事を書いたのもこのペリカンM101についてのものだった。
 その記事の冒頭を再掲する。ペリカン社の発売に際してのコメントだ。

 1937年にペリカンは最初のM101Nを発売し大成功を収めました。全部で6モデルが販売されましたが、トータスシェル・ブラウン・モデルが、後に最も探し求められたビンテージ万年筆のひとつとなりました。当時このモデルはドイツ国外のみで販売されました。このモデルの形と色は、現在でも多くのビンテージ万年筆の収集家や愛好家に好まれています。ペリカンではこのM101Nトータスシェル・ブラウンを特別生産品として発売致します。
 トータスシェルの胴軸とキャップはオリジナルではセルロイドが使われていましたが、この度発売されるモデルはセルロース・アセテートが使われています。ペン先はオリジナルと同様14金で現代の万年筆と比べると1937年のモデルのように小ぶりに作られています。こげ茶色の部分は高級樹脂でできており、クリップとリングは14金ゴールドプレート仕上げになっています。   
 ブログへのリンク

 ブログの記事にも書いたように、京都伊勢丹でこの万年筆を試し書きした時、私はその書き心地とボディの美しさに憑かれてしまった。大きさはスーベレーンM600くらいだと思った。正確に計った訳ではないが、M800より一回り小振りに作られていることは常々M800を使っているのですぐに分かった。スーベレーンM600はボディが小さいだけではない。M800や1000に比べてペン先が固い。だから、見た目の大きさがM600と同じだからペン先も同じように固いだろうと想像していた。ところが、実際に文字を書いてみた瞬間にこれは違うと思った。

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    - ぬらぬらと書く -

 万年筆の良さを表すのに、「ぬらぬらと書ける」という言葉が使われる。これは、日本の筆や、ボールペンや鉛筆には使われない特別な表現だ。「スラスラ」とか「スイスイ書ける」という言い回しは他の筆記具でも用いられるが、「ヌラヌラ」は万年筆だけだ。
 そのヌラヌラ感がこのM101Nにはある。いくらボディが良くても書き心地が悪ければ万年筆として用を成さない。万年筆の善し悪しはペン先と書き心地によって決まる。ビンテージ万年筆が高価な値段で取引されているのは、このためだと私は思っている。
 その良い例がモンブランだ。モンブラン社は、今や一つのアクセサリーブランドの一つになってしまって、ボディの装飾やペン先の見かけにだけ力を入れすぎているため、単にモンブランショップが近くにある場合は、店にモンブラン万年筆を置けないという理不尽な規定だけでなく、心ある筆記具店は自らモンブランを置かない主義を取り始めて久しくなる。

 復刻版とはいえ、ペリカン社は今も万年筆作りの拘りを失くしていないので、売り出された当時とほぼ同じ書き味を再現したのだと思う。ペリカーノジュニアという万年筆は、小学生が正しくペンを持ち、美しい文字を書けるようにとペリカン社が今も作り続けている。大人が使っても実に使いやすい。
 拘りというのは、人で言うなら生き様であり、会社で言うなら会社の有り様への執着だ。時には、両刃の剣になることもある。しかし、なんの拘泥もない人やメーカーに良いものは作れないことは確かだ。

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 さて、私はこのM101トータスシェルブラウンをどのように使っているかと言えば、一つは、原稿を書く時、もう一つは便箋に文字を認める時。この二種類の作業をおいて他には使わない。それが、この万年筆への私の拘りと言える。

    - ペリカンとブルーブラック -

 インクはオリジナルのブルーブラックではなく、ペリカンのブルーブラックを入れている。最近、地球環境への配慮ということで、インクも昔は配合されていた酸化鉄を含まないものが増えている。昔ながらのブルーブラックを「古典ブルーブラック」と呼ぶらしい。どれほどの人が、どれほどの量の文字をブルーブラックのインクで書くのかは知らないが、少し馬鹿げた話だと思う。
 地球の環境がどうのこうのと言い出される前から、ペリカン社のインクはその粒子の細かさで他のメーカーと一線を画していた。粒子の細かさはインクの粘度に関係するだけでなく、インクの色の経年変化にも影響する。私は色々試してみた結果、ブルーブラックのインクの基本はペリカンのそれと決めている。少なくとも、1年後に見返した時に落ち着いた色のままで文字たちが佇んでいる。

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 M101Nのボディは、セルロース・アセテートで出来ているのでレジンよりも柔らかい。その柔らかさが手にした時に指に伝わってくる。軽く摘まむだけで吸い付くようにぴたりと握ったポジションが決まって変わらない。インク窓から見える中のインクが内部で付着していないのは、ボディの内部までが隙無く磨き上げられていることの証明だ。実に入念に作られている。

 私はこのM101の復刻版の第二弾を待っていた。第二弾であるM101リザードが出ると発表された時は、早速に手に入れた。    ブログへのリンク

■ ペン先  : 14金 
■ サイズ  : F
■ 機構   : ピストンフィラー 吸入式 / キャップ ネジ式
■ 材質   : ボディ> アクリル・アセテート / トリム> 14金 ゴールドプレート
■ 長さ   : 123mm (収納寺)/ 約156mm(筆記時)
■ 太さ   : 11.5mmφ
■ 重さ   : 15g

Pelikan Souverän M800 緑縞

    - スーベレーンという舶来万年筆 -

 「舶来」という言葉は、今では殆ど耳にすることはない。私が学生だった頃にはもう既にこの古くさい響きを聴くことはめったになかった。
 私にとって万年筆と言えば、モンブランとパーカーと、そしてペリカンだった。この3社の万年筆とは、随分長く付き合っている。最近、海外の色々なメーカーの万年筆が容易く手に入るようになって、私もその恩恵に浴している。
 そんな今、この緑縞のボディを手にとってみると、あの懐かしい言葉の響きが頭の中をよぎる。何かアンティークな趣を感じるのだ。それでいて、万年筆自体は他と比べて何の遜色もなく現代のそのものである。形を変えない時代を超えた普遍性のようなものに魅力を感じてならない。(最近、クリップの天冠をメタリックにしたこたは、少し残念に思う)
 私がペリカンの800を何本も購入してきたのは、そんなところにも理由がある。私にとっての「舶来万年筆」なのだ。

    - 趣のある個体差 -

 1997年に、このスーベレーンM800はペン・オブ・ザ・イヤーを受賞した。この万年筆の美しさやバランスの良さ、拵えの精緻さがヨーロッパの万年筆愛好家たちに高い評価を受けたのだろう。
 しかし、この万年筆は製造された年や時期によって、即ちロットによって個体差がある。モンブランのように明け透けな変化ではないが、意図しないところでの正に個体差なのだ。
 最も顕著なのは、緑縞の縞模様だ。同じ年に作られたものでも縞模様が違う。行儀良く一本一本の縞が均一に揃っているものもあれば、緑色の深みがまるでバラバラのものもある。実際、私が今所有している5本の緑縞も皆、縞模様が微妙に違う。小さなことだが、筆記の間に眺める景色が異なる。

 これは製造工程に原因がある。ボディを作る時、
 1 まず緑縞模様のアクリル樹脂を平らな延べ板にする。
 2 その延べ板を一本のボディ用にカットして、継ぎ目が分からないように棒状に巻く。
 簡単に言えば、この2つの工程で緑縞の筒ができるわけだ。延べ板のどこをカットするのかによって縞模様が変わる。最初の縞模様の延べ板を作る時にも既に緑縞模様の深みや色合いが違っているのだから、出来上がったボディは一本一本違っている。

 次にペン先だ。製造過程は他のメーカーと同じだが、18金のペン先型延べ板に圧力をかけて薄く延ばす作業は手作業同然だ。数ミクロンの差でペン先の柔らかさは変わる。細かなことは省略するが、一つ一つの工程でペン先は変わるものだ。
 ペリカンは、M400から1000までの4種のボディにそれぞれEFからOBBまで8種類のペン先がある。それぞれの大きさでペン先の形状が違うので、同じ型のペン先でも同じものが作れる訳がない。
 カラーのセルロイドやレジンの切り出し万年筆のように、最初からそれぞれ違っても仕方がないということを前提にしているのではなく、不可抗力で世界で一本だけの万年筆ができるのだ。私はこれがペリカンの醍醐味だと思っている。

    - ペン先の調整 -

 ペリカンだけでなく、当然のことながらヨーロッパの万年筆は、横文字・アルファベットを書くために作られている。カリグラフィと呼ばれる筆描手法は、ヨーロッパの羽ペン文化とアジアの毛筆を使う文化では大きく異なる。線の強弱や太さに変化をつけるという点では同じだが、変化の付け所がまるで違う。メーカーによって程度の差はあるが、ペリカンのペン先は極端にアルファベット仕様だ。
 漢字やひらがなをヨーロッパ仕様のままで書くのも味わいがあるが、私は日本語仕様にしたい。輸入される際、多少の配慮はあるらしいが、メーカーのコンセプトを無くしてしまう程ではない。だから自分好みに調整する。私が所有しているペリカンは全て自分仕様に調整されたものだ。中には一度の調整では満足できず、二度三度と調整して貰ったものもある。

souveran15.jpg  ペリカンの場合、基本的にはペン先の角張った角を落として丸く研いでいただく。その後、私がペンを持つ角度に合わせて、最もスムーズにペン先が紙を滑るように調整していただく。

souveran17.jpg  今使っているBニブを調整していただいたのは、10年近く前のことだ。たまたま訪れた文具店で催されていたペンクリニックで、随分年配の方(失礼なことにお名前は聞かなかった)に診ていただいた。試し書き用の紙の4隅に名前を書くように指示されて、言われたとおりに書いてみた。するとその老調整士は、熟練した目で私の書き癖を見抜いてペン先を研ぎ始められた。私が納得するまで、研いでは「どうですか?」と尋ねられながら、試しながら、調整が繰り返される。申し訳ないと思うくらいまで時間をかけて調整していただいた。「これ以上やると、ペリカンの万年筆ではなくなってしまいますよ」と苦笑されながらも作業を続けていただいた。寒い日の夕暮れ時、とある有名文具店の店先でのことだった。
 この話を、今はパイロットのペンドクターとして全国のペンクリニックを廻っておられる奥野浩二氏に話すと、その時のことをよく覚えられていて、「それは私の師匠です」と答えていただいた。その時、奥野氏は隣に座っておられたらしい。
 太めであるBニブの万年筆は何本か持っているが、このペリカンはその書き味でかけがえのない一本になった。
souveran20.jpg

■ ペン先 : ロジウム装飾18金 /  文字幅 : B / M
■ 機構 : 吸入式
■ 長さ : 142mm(収納時) /  約166mm(筆記時)  軸径最大:約13mmφ
■ キャップ径 : 最大:約15mmφ (クリップを除く)
■ 重さ : 約28g

Pelikan Souverän M405

     - 「冬枯れ」のための万年筆 -

 数年前、神戸の万年筆店「ペンアンドメッセージ」を訪れた。どの万年筆を購入したのか、すぐには思い出せない。しかし、この万年筆を購入した時のことは鮮明に覚えている。 penandmessage.jpg店主の吉宗さんが店を構えられて間もない頃だったと思うが、ある万年筆を購入した時、会員証のような物だったか、保証書にだったか吉宗さんが文字を書かれた。ペリカンM800の同軸に朱の漆を塗ったもので、「ぼくの万年筆はみんな朱くされてしまうのかなぁ」と苦笑されていた。私はそのペリカンを貸してもらって、自分の住所と名前を書いてみた。何とも良い書き心地だった。そのことを告げると、「この万年筆、私が調整した万年筆の書き心地が悪かったら、商売をする資格がないとうか、できませんよ」と、至極尤もな言葉が笑顔で返ってきた。 私が感心したのは万年筆だけではなかった。灰色がかった黒というか、墨のように柔らかな黒のインクがとても気に入った。尋ねてみると、吉宗さんがブレンドしたオリジナルインクとの事だった。「邪魔にならない黒でしょ」と続く。もうすぐこの店の商品にしようと思っているのですと嬉しい告知をしていただいた。

 それから月日が経って店を訪れてみると、あの告知どおりにオリジナルインクが商品になっていた。「冬枯れ」という名前も洒落ている。このネーミングの謂われは聞いていない。
 私は早速、一瓶いただいた。冬のことで時刻も遅かったので、暖かい珈琲でも飲んで帰ろうと思って、そそくさと店を出た。
 近くの西村珈琲店で珈琲を飲みながら、この冬枯れをどの万年筆に入れようかと考えてみると、思いつかない。いっそ、このインクが似合う万年筆を買おうと意を決した。少々帰宅が遅くなっても良いと思って、私はペンアンドメッセージに引き返した。

 「ペンを買ってそのペンに似合うインクを探される方はいらっしゃいますが、インクを買ってペンを探されるのは初めてです」と、吉宗さんも少し笑いながら万年筆探しを手伝ってくれた。
 3本の万年筆を候補にあげてもらって、試し書きをした。ダークブルーのボディから墨色が出てくるというのが、派手な見かけと渋い中身という何とも言えない微妙なアンバランスという妙なバランスが気に入った。このモデルはもうすぐ製造中止になるそうですよという吉宗さんの言葉が私の買う気を後押しした。
 少し調整をしてもらって、冬枯れを入れて帰った。

 今では国産メーカーも競うように多くの色のインクを発売し、万年筆店もそれぞれのオリジナルインクを沢山出している。インクブームといっても良いくらいだが、「冬枯れ」はそのブームの走りだった。

  【機構・サイズ等】

  ■  デザイナー:Gerd A. Mullar(ゲルト・アルフレッド・ミュラー)
  ■  ピストン吸入式
  ■  ペン先:14金プラチナ仕上げペン先
  ■  文字幅:M
  ■  138mm(収納時)/150mm(筆記時) 軸径:13mmφ 重さ:20g
  ■  ボディ:ポリカーボネイト
  ■  クリップ:ステンレス

Pelikan Souverän M1000 緑縞

     - 緑縞というボディ -

 先に「ペリカン スーベレーン M1000」については、記事にしている。しかし、私が
購入したのは、実は、この緑縞の方が先だ。

 まだ、神戸のナガサワ文具店が新しい店舗になる前のこと、既にファーバーカステル
のペルナンブコを購入していたので、ナガサワ文具店とは、馴染みになっていた。12
月も押し迫った頃、招待状が届き、店に行ってみた。いつものとおり、何を買うともな
く。そこで、目に留まったのが、このスーベレーンの緑縞だった。
 サイズは、

 ■  長さ:約147mm(収納時)/約177mm(筆記時)
 ■  軸径最大:約14mmφ
 ■  キャップ径最大:約16mmφ
 ■  重さ:約33g

 と、かなり大型の万年筆だ。

 私が気に入って購入した訳は、この万年筆に限っては、ボディの色柄だ。緑縞には、
特別の想いがあった。学生時代から使っていたペリカン緑縞の万年筆を心ない人に持っ
て行かれてから、その想いは心の中に澱のように残っていた。この万年筆と出逢った
時、その鬱憤が少しは晴れるような気がした。早速、試し書きをさせて貰うと、スラ
スラと書ける。大型の万年筆だと思わせない筆記感は、筆圧が強くないどちらかとい
うと撫でるように書く私の書き癖のせいだと
思う。

     - 万年筆とインクと紙 -

 ペリカン・スーベレーンM1000と言えば、そのペン先の柔らかさが定評だ。フワフワ
などと評される。実際、私の持っているもう一本のM1000はそのとおりだ。しかし、こ
の個体は違う。高価な万年筆ほど、個体差が大きい。黒以外の色であれば、ボディの色
合いさえ違うこともある。ペン先の個体差はあって当たり前だと想う。この緑縞は、も
う一本のM1000に比べるとやや硬いと言わざる得ない。それ故に、もう一本の黒ボディ
の方を手に入れてからは、この緑縞の使用頻度は極端に下がった。同じペンケースに入
れながら、触手はついつい柔らか、フワフワの方に伸びていた。しかし、あるインクと
出逢ったからは、事情は変わった。

 インクフローは、ペン先の18金・14金・スチールとかニブの構造だけで決まる訳では
ない。同じ18金や14金でも、いや、スチールでさえも、少しの形の違いや、金属の厚さ
薄さによっても、ペン先の柔らかさとインクフローに違いが出る。調整によって、イン
クフローは変えられるが、柔らかさとの兼ね合いが難しい。

 同じインクを入れるとインクフローが潤沢だとか、控えめだとかの判断ができるが、
異なるインクを入れると、インクの出方も変わる。話が広がりすぎてしまうが、もちろ
ん、書く紙によっても、滲み具合に差があるので、ペン先とインクの質と色、それに紙
の4つの要素の組合せは優に百万通りを超える。
 その中で、自分の好みや用途を考えて、万年筆と紙やノートの組会わせを探すのは、
一生を費やす価値のある旅のようなものだと思う。

     - パイロット 色彩雫(いろしずく) -

 私は基本的には、万年筆のインクはブルーブラックかブラックと決めている。
 メーカーによって、この2色も様々な色合いがある。20社以上のブルーブラックを
試したが、気に入っていたメーカーが色合いを変えたので、今は、自分でブレンドした
ブルーブラックを使っている。

 インクの特性として、その粘性がある。粘性の高いものは、当然インクフローも控え
気味になる。粘性の低いサラサラとしたインクだと反対にインクが良く出る。
 海外のメーカーは、インク粒子の細かさに差があるので、褪色した時に本領がわかる。
書いた時の色と1年後の色が違うことが多い。インク探しもまた、旅だと言えよう。

 パイロットの色彩雫というインクシリーズが最近、売り出された。最初は3色だけの
発売だったが最近は20色にも及ぼうという勢いで種類が増えた。その中で、最近発売
された「松露」という落ち着いた深緑色のインクが気に入った。

 偶然にも、ペリカンの緑縞の緑とよく似ていて、これを入れたとき、万年筆から繰り
出される文字の色と万年筆がよく合う。粘性が低いので、インクが潤沢に出る。この上
ない組合せだと思うと、長い間、休んでいたペリカン・スーベレーンM1000緑縞の出番
が俄然増えた。
  万年筆とは面白いものだ。

   秋深き隣は何をする人ぞ
                   芭蕉のこの句も感慨深い。

Pelikan Souverän M800

     小さな秘密・・・

 JR京都伊勢丹の万年筆売場にはよく出掛ける。よく出掛けると言っても、所謂ウィンドウショッピングには全く縁がない。必要な物があれば、それを買って帰るだけだから、自ずと出掛ける回数もそこに居る時間も少なく短い。しかし、万年筆売場だけは別だ。

 他の買い物をした後、殆ど必ず万年筆売場を覗く。ショーケースに並んでいる万年筆を見たり、時々新しい物が陳列されているのを見たりと徒然に時間を過ごす。

 この万年筆と出逢ったのもそんな時だった。本当の目的だった買い物が何だったのか今は思い出せない。すっかり店員さんと顔見知りになっていたので、新しいものが入ったり、イベントの予定があると教えてくれる。時にはショーケースから出してもらって試し書きをする。店員さんと万年筆談義をすることさえもある。

 そんな某店員さんがこう教えてくれた。今はそんなことはしていないということなので、紹介しても良いだろう。時効だ。ちなみに、その店員さんも今は店におられない。

 今のように万年筆が小さなブームになる前の話だ。伊勢丹で年に一回、ペンクリニックが催される。大阪や神戸でペンクリニックがあれば、長蛇の列ができるが、京都では、そのようなことはない。長く待ってもせいぜい2、3人後だ。ましてや、何年も前の話となると、順番待ちの人が列を作ることなどなかった。

 セーラー万年筆のペンドクター、川口弘明氏がそのペンクリニックにやって来られる。私は神戸で川口氏のペン先調整を経験していたので、その腕前と調整の心得をよく知っていた。万年筆を調整するプロの調整師は何人もおられるが、それぞれ調整の仕方や考え方が違う。従って、調整する人によって万年筆は全く別の書き味になる。壊れた所を修理をするのは簡単だ。

 しかし、依頼人の書き癖や好みを見抜いて調整し、ぴたりと満足させるのは極めて難しい。川口氏はそれができる数少ない人の一人だ。豊富な経験と、その経験で培われる技術と見識が重要なのだ。川口氏の人気は高い。全国に川口氏の調整を信頼している人が大勢おられる。

 伊勢丹の店員さんが私にこっそり教えてくれたことは、「川口先生がうちに来られた日は、暇がある時には、少し不具合のあるペン先を見つけては、調整して帰られるのですよ。」ということだった。ただし、海外のもので調整の甲斐がある見込みのあるものだけらしいが。

 「この万年筆は、川口先生の調整済みです。」
 聞けば、値札の裏にこっそりと目印が付けてあるらしい。それを見せていただくと、何本かの万年筆の値札の裏には、インクで小さく目印が付いていた。その万年筆の中に、ペリカンM800が一本あった。私はすっかり興味を引かれ、早速試し書きをさせてもらった。ボディはボルドーの赤縞だったが、そんなことは関係ない。書き味は、それまでに持っていたM800とは全く違い、スラスラ感とヌラヌラ感が心地よく、「買うしかない」と即決した。

 私が持っていたM800(緑縞)は、ペリカンのフラグシップで1997年にペン・オブ・ザ・イヤーを受賞している。既に持っている緑縞のことを、購入の際の会話の中で何気なく言うと、

 「今度は、黒にしてはどうですか。ペン先が気に入られたのならボディは交換します。」
と提案してくれた。私は提案通りに、黒のボディに交換してもらった。ペリカンはニブがネジ式なので簡単にペン先とボディを交換できる。

  こうして私はこの万年筆を手に入れた。

     ペリカンの蒐集



 このM800で、私はすっかりペリカンの虜になった。その後も数本M800を購入し、それぞれの書き味を楽しんでいるが、全てのペリカンM800の基本はこの万年筆にある。この万年筆の書き心地を基準にして購入し、調整した上で使っている。
 上の写真、10枚目は同じM800だが、ペン先を大きく前に出して、スイートスポットを変えている。もちろん、これはペリカン社の基本から外れた使い方だが、このような調整もできるところがペリカンの魅力でもある。

 私が使っているM800は、一本のみ文字幅Bだが、その他はMだ。同じMの文字幅でも、それぞれ線の太さと書き味が違う。用途によって使い分けているが、文字を書くことを楽しむという一点だけで考えるなら、この黒ボディのM800が一番である。

 他の万年筆は職場に持って行ったり、出張にお供させたりするが、この万年筆はペリカンの自宅用ペンケースに入れて、書斎に置いている。外では使いたくない万年筆なのだ。

  文字を書くことを楽しむ万年筆だから。


 【ペン先・機構等】

■ ペン先 : ロジウム装飾18金 /  文字幅 : M 
■ 機構 : 吸入式
■ 長さ : 142mm(収納時) /  約166mm(筆記時)  軸径最大:約13mmφ
■ キャップ径 : 最大:約15mmφ (クリップを除く)
■ 重さ : 約28g

ペリカン M205 デモンストレーター (通称ペリスケ)

     「ペリスケ」という万年筆

 通称「ペリスケ」という万年筆があることは、以前から知っていた。ここ数年、各メーカーが競うようにして軸が透明の万年筆を売り出すたびに、「あぁ、ペリスケの真似か・・・」と思うほど私にとって、スケルトンの万年筆と言えば、ペリカンの初代デモンストレーターだった。

 1990年代に売り出された初代は、数量限定で瞬く間に完売となった。残念ながら、私は初代ペリスケを持っていない。インターネットで見かけると、興味は湧くのだが、あっさりしたスケルトン仕立てのデザインなのに、金色のペン先とその他のパーツが金色トリムであったことに、違和感を覚えた。今考えると、デモンストレーターなのだから、それまでにあったペリカン・スーベレーンの仕組みを見せるために作ったと思えば、至極ごもっともなことで、90年代に世に出したペリカン社の姿勢は天晴れ評価できる。
 今なら金色トリムがレトロな感じで、私の嗜好の範疇に入っており、間違いなく購入している。再び、巡り逢うことがあれば良いのだが・・・。

     復刻版との出逢い

 ある日、何を購入するという当てもなく、万年筆店Pen and messageを訪れた。ショーケースを見ていると、ペリスケがケースの端に置いてあったので、店主の吉宗さんに尋ねると、「ペリカンがまた、スケルトンを出したのですよ。この前のは人気でしたからね。」と、説明してくれた。ペン先は "F" の一本のみが店にあった。早速、ケースから出してもらって試し書きをしてみた。
 外見は、銀色トリムなので、何の衒いもなく、全体的に不協和音も感じることが無かった。ペン先の大きさは、同サイズのM400より大きく存在感がある。何よりも、ペン先が大きく長いのでペンポイントが軸の中心近くにあり、日本語を書くのに適している。スチールなので柔らかさは殆どない。
 ただ、文字を書く時のペン先が紙にあたる感触が心地よく手に伝わってくる。
 一つには、さすがはペリカンの万年筆、ボディーが確り作られているのと、もう一つは、吉宗さんにペン先を滑らかに研いで貰ったためだ。
 長年の想いが晴れた気分で、私はこの万年筆を購入することができた。ちなみに、この復刻版も数量限定だったので今はもう手に入らない。

     インクを入れる楽しみ

パイロット「紺碧」  ピストン吸入式なので、インクを瓶から入れるのも楽しみだ。スケルトンなのでインクタンクにインクが入って行く様子がよく分かる。
 普通のインクでは、せっかくの透明インクタンクがもったいない。色々なインクを入れて試してみたが、やはりブルーが落ち着いている。ブルーにも沢山の色合いがあるので、書いた時の文字の色とインクタンクから見えるインクそのものの色を考え合わせて、パイロットのオリジナルインク、「紺碧」を入れている。

Pelikan Souverän M1000

   「書く」ということを楽しむための万年筆
 スーベレーン最上シリーズ。その大きなペン先は柔らかく繊細。腰の柔らかい書き味は「ふわふわ」などと表現されるほどです。書き味を楽しむと文字が丁寧になる。文字が丁寧になると、メッセージを伝える相手にも優しい気持ちが届きます。心にゆとりを持ち、「書く」ということを心から楽しむための万年筆がここにあります。<Pen-House>

 ペンハウスのペリカン・スーベレーンM1000を見てみると、上のような説明がある。数行の説明だがこの万年筆を表すのに最も言い得ている。
 私はこの万年筆と出会うため、それまでに5本のペリカン・スーベレーンを購入していた。厳密に言うと、M800が4本と同じM1000を1本。それ以外のスーベレーンも購入したが、使う目的が違う。ペリカンのこのシリーズほど、売り出される年やロットによって、変わるものはないと思う。職人の気まぐれか、あるいは一本一本手作りであるための不可抗力か。

 私は、いつも行くJR京都伊勢丹の万年筆コーナーで、何気なく試し書きして、この一本と出逢った。夕刻のことだったので、家路につく一歩手前でじっくり考えることもなく、その場で購入した。

 ペン先を自分好みにするために、その形状を自分で変える人がいる。以前、雑誌(趣味の文具箱)でアウロラ88クラシックのペン先を見事なまでに加工して好みの形にしている人がいることを知った。見事な技術だった。今は、なるほどとその目的がわかる。
 万年筆は、いくらボディーが綺麗でもペン先が悪ければ万年筆としての用を成さない。その逆も言える。ペン先が良ければ、ボディーの見かけが悪くても万年筆として立派に書き手を満足させてくれる。そして、その両方が良ければ、手放さない貴重な一本となる。

 私は、この万年筆を上述のペンハウスの説明のとおりに使っている。

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  • pelican003.jpg
大きさ比較:2本写っている写真の手前側がM800 雑誌はタイム

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【ペン先・機構等】
■ ペン先 : ロジウム装飾 18金 文字幅 : M
■ 機構  : 吸入式  /  キャップタイプ
■ サイズ : 長さ : 約147mm (収納時) / 約177mm (筆記時) 軸径最大 : 約14mmφ
         キャップ径最大:約16mmφ(クリップを除く)
■ 重さ  : 約33g