GRAF Von FABER-CASTELL INTUITION

    - 新たなフラッグシップに -

 ファーバーカステルの万年筆は、これが2本目だ。随分前に手にしたペルナンブコからかなりの歳月が経つ。クラシックコレクションのペルナンブコもそうだったが、同社の万年筆は軸材に凝っていてそれ故に値が張る。特に2000年代に入って毎年のようにその歳のペン・オブ・ザ・イヤーに選ばれる万年筆は数十万円の値で売り出される。
 そのような経営コンセプトを持ったファーバーカステル社が少し変わった万年筆を作った。今から数年前のことだ。雑誌で見た時は、驚いた。まともな作りでペン先にも手を抜かずに、「この値段で?」と感嘆したものだ。
 同社の万年筆で5万円を下回る値のものは、それまではどこかで安価に仕立てられたものという感が否めなかった。しかし、このイントゥーイションは作りにも工夫があり新鮮だった。斯くして早速にこの万年筆を手に入れた。
 私がこの万年筆を購入したときは、まだこの1モデルしかなかったが、今では様々なバリエーションがある。同社の新たな代表モデルになりそうだ。

    - 唯一の主張なのだろうか -

 ボディは太くもなく細くなく、長くもなく短くもない。握った感覚はすこぶる普通だ。ただ違うのは、キャップの形だ。普通の万年筆はキャップトップに近づくほど細くなり、キャップを閉めた時に万年筆全体が流線型になるように設計されている。このイントゥーイションはキャップトップがお皿の形をして開いている。これは、ファーヴァーカステルのシンボルだ。ヨーロッパの人たちは、万年筆を使う時にキャップをボディに差し込む習慣が無いらしい。ふいと横に置いておくのだろうが、お皿ら型の平なキャップトップなら逆さにして立てることができる。想像だが、ファーバーカステル社はそれを願っているのではないだろうか。他に理由があるかもしれないが、教えていただけるものなら是非教えて欲しい。

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    - 一見普通の万年筆なのだが -

 この万年筆の一番の特徴は、その構造だ。カートリッジとコンバーターの両用式だが、ペン先のニブからコンバーターまでの一連のパーツをペン先の方から抜くようになっている。
 まず、ボディの尻軸にあるネジを回す。すると、一連のパーツがペン先の方から出てくる。それを引き抜くとコンバーターが現れる。後は普通の万年筆と同じようにインクを吸入する。この仕掛けが如何にも大人向けの玩具らしくて、目的は分からないが楽しい。

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    - 確りしたペン先 -

 ペン先はやや固めなので、インクフローを良くする工夫が使い手に求められる。私は、イン
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クフローの良いオリジナルインクを入れて固さをカバーしている。もっと使えば、自然にどのようなインクを入れてもインクフローが良くなるのだろうが、もう数年はかかるだろう。

■ ペン先  : 18金 
■ サイズ  : M
■ 機構   : コンバーター、カートリッジ両用式、スプリング式クリップ / キャップ 差し込み式
■ 材質   : ボディ> レジン / トリム> プラチナプレートクラウン
■ 長さ   : 約125mm(収納時) / 約143mm(筆記時)
■ 太さ   : 12mmφ  / キャップ径:14mmφ
■ 重さ   : 29g

GRAF Von FABER-CASTELL PERNAMBUCCO

ファーバーカステル クラシック コレクション ペルナンブコ・プラチナコーティング

     -ギャラリーの写真について-

 【1枚目】 写っているのは万年筆・モレスキンの手帳・アウロラの2本用ペンケース
    光が当たると実物もこのように、ボディの木材(ペルナンブコ)が輝く。
    私にとっては、このペンと手帳とペンケースが3点セットだ。

 【2枚目】 光量を少なめにすると、1枚目のようには輝かない。
    1枚目も2枚目も太陽光のみで撮影した。輝き加減の違いは写真のミスではない。
    どちらも、実物の色を再現している。ランプと蛍光灯でも輝きに違いが出る。

 【3枚目】 実際に使っているモレスキンでの筆記。
    ペン先の詳細画像よりもインクの色と線の太さを重視して撮影した。

 【4枚目】 長さと太さ、ペン先の大きさを比較するために撮影した。
    一番上の写真は、直前に公開した「パイロットファルカン」
    真ん中は、「ペンカン スーベレーンM1000(緑縞)」
    一番下が「ファーバーカステル」 キャップを軸に付けると、この長さになる。

 【5枚目】 ペンハウス提供の写真。後に記事の中で説明するが、木材の色が浅い。
    最近のペルナンブコは、どこで見かけるのもこの色合いだ。

 【6枚目】 ホームとこのページのバナーに使っている写真の切り抜き。
    万年筆の横に写っているのは、同じペルナンブコのシャープペンシル(0.7㎜芯)
    上の5枚目の写真と、この2本の木材の色合いに注目していただきたい。

     『ナガサワ文具店・ファーバーカステルとの出逢い』

 2006年6月24日、私は初めて神戸のナガサワ文具店を訪れた。今はもう元の場所の近く移転していてその店舗はない。6階か7階建てのビルだったと思う。店の看板全体が万年筆の絵を描いたもので、恐らくビルの数階相当の高さに及ぶレトロで巨大なものだった。1階は、鉛筆や色鉛筆、シャープペンシルなどが所狭しと置かれていて、品揃えが豊富だった。海外メーカーの鉛筆や専門的な筆記具があったので、それを必要とする学生さんなどで賑わっていた。
 私はそれを尻目に、早速、上階の万年筆売場へエレベーターで上がった。記憶が確かではないが、4階か5階だったと思う。

 エレベーターを降りると、そこは1階の喧騒とは打って変わって、別世界の静寂がフロアーを占めていた。女性の店員が奥のレジに一人、万年筆を調整している男性が一人、私の他に先客の姿が数人だけ見えた。客の一人が調整をしている店員と話されていたので、大きな声は勿論、普通に話すことさえ憚られるような静けさの中で、足音にも気を遣いながら、私はそのフロアーに展示されている万年筆を見てまわった。一本一本が丁寧に一定の間隔で並べられていて、胸が躍った。

 フロアーの半分が高級な万年筆で、半分がインクや便箋などで占められていた。一通り、フロアー全体を見終えて、エレベーター付近の万年筆のところへ行くと、先ほど、調整のことで話をされていた男性客の姿が見えなくなったので、私は調整をしている責任者らしい男性に声をかけた。

  「少し変わった万年筆が欲しいのですが・・・。」

 何とも頓馬な問いかけだった。これで分かるはずがない。それまでは、黒と金装飾の定番万年筆が殆どだった私にとって、ここなら定番万年筆ではないものが、それも書き心地の良いものが手に入ると思って、そう尋ねたのだが。

     『ファーバーカステルと吉宗さんとの出逢い』

 しかし、その調整をしていた男性は気さくに話を聞いてくれて、数本の万年筆を試し書き用の机の上に並べてくれた。ファーバーカステル以外の万年筆が何だったのか覚えていないが、出していただいた万年筆は全て試し書きをさせてもらった。どの万年筆も大きさや書き味が違ったが、何れも書き心地は申し分がなかったことは覚えている。書き味だけで選ぶなら迷っいた。

 尋ねてみたことろ、そのフロアーに置いてある万年筆は、十分に検品され、もし問題があれば既に調整をしてあるとのことだった。購入を決めれば、使い手の好みや癖に合わせて、さらに調整するとのこだった。私はそれを聞いて、後はボディの色やデザインなどを決めれば良いと思って、初めての万年筆店であるにも拘わらず、一本を購入すると決めていた。

 私をこんなふうに思わせ店員さんは、今は独立して神戸元町に万年筆店"Pen and message"を営まれている店主の吉宗史博さんだ。

 結局、選んだのが、ファーバーカステルのペルナンブコだった。他の万年筆も個性的だったが、セルロイドか樹脂製だったので、思い切って軸材の全く違う木製ボディにしようと思ったのだった。字幅は超細字のEFだったが、試し書きをしている時は、それがEFのペン先だとは全く思わなかった。Mより少し細めかなと思ったが、万年筆店に置いてある試し書き用の紙はインクの吸い込みが良い。だから線が少し太めになる。購入して自宅で書いてみると、メーカーの試し書き用紙に書いた時に比べて、使う紙にもよるが、概して線が細くなる。

 しかし、ドイツ製のEFは、ペンの大きさにもよるが、国産万年筆のMかFくらいである。国産万年筆のEFは、髪の毛ほどの細さだが、ファーバーカステルは程良い細さだ。

     『モレスキンに使う』

  

 ナガサワ文具店で試し書きをした心地よさと線の太さを考えて、それを再現して使おうと思えば、モレスキンの手帳が良い。ペン先はやや硬めだが、筆圧の加え方で線の強弱を表現できるだけの腰の柔らかさは十分にある。モレスキンの紙のインク滲みと合わせれば、この万年筆の良さと特徴が引き出される。

 購入して以来、私はこの使い方をしている。他の紙の上にこの万年筆を置いたことは殆どない。インクフローが一定している点では、この万年筆の機構に勝るものはない。インクが空になるまで線の色の濃さは変わらない。キャップを軸に差し込めば、ペリカンM1000と変わらない長さになり、とんでもないバランスになる。この万年筆に限って、私はキャップはつけずに使っている。そのことがまた、手帳に小さな字で書くのに適した理由になっている。

     『最近のペルナンブコ』

 ファーバーカステルはもともと鉛筆のメーカーであり、今では常識になっている6角形の形や太さや長さも、このメーカーが最初に作ったものだ。創業は、1761年とかなり古い。2003年に、木の軸材の「スネークウッド」を発表して以来、毎年、ペン・オブ・ザ・イヤーに選ばれる万年筆を発表しており、最近は数十万円もする素材の万年筆を売り出している。ペルナンブコが発売された当時、同じ木材の「エボニー(黒檀)」と「グラナディア」もあったが、この2つは黒色なので個体差はあまり目立たない。しかし、ペルナンブコは、発売当時、赤褐色と表現されて、一本一本の木目や色合いなどの個体差が相当あった。最近、百貨店などで目にするペルナンブコは、一応に同じ色をしている。上のギャラリーの4枚目の写真が実物に大変近い。使っているうちに、個体差が出てくるかもしれないのだが、少なくとも、私が購入した5年前とは、事情が違うようだ。

     追記:9月24

 事情が違うのは、私が購入した時も同じだった。万年筆好きなら、むしろ下に紹介する発売当初のキャップなどが銀製の物の方が好まれる。銀は手入れが大変だが、味わいが出てくる。この写真は、「私的電脳小物遊技」のブログから拝借した。






 【ペン先・機構等】

【ペン先】 18金ペン先 文字幅:EF
【機 構】 カートリッジ/コンバーター両用式(コンバーター付属)
【サイズ】 長さ: 約138mm(収納時)/ 約172mm(筆記時) / 最大胴軸径:約11mmφ キャップ径:約12.5mmφ
【重 さ】 重さ:約40g
【仕 様】 ボディー材:ペルナンブコ / 金属部:プラチナコーティング