Sheaffer imperial 777 G.F

    - 私にとってのシェーファー万年筆 -

 シェーファーインペリアル型万年筆は多くのバリエーションがある。私が所有しているものはその一部だが、どのバリエーションにも共通して言えることは、温かみだ。前に記事にしたインペリアル4型は、初期のもので、インクの吸入方式が何とも愛おしい。
 シェーファーの万年筆は何本か購入してきたが、現在のフラッグシップになっているモデル"VLR"にはあまり魅かれない。機能やバランス面ではきっと優れているに違いないのだろうが、温かみを感じないからだ。
 現在店頭に置かれているものの中では、温かみを感じるのはヘリテージまでのものだ。以前の記事にも記したが、最初にあの反ったペン先を見た時は、「これは違う」としか思わなかった。

 最初に手にしたモンブラン149でさえ、当時の京都丸善の懇意にしてくださった店員さんにお願いして、ペン先を鉛筆のように中心に向かって1ミリ寄せていただいた次第だ。その当時、今から30年ほど前までは、文房具売り場からメーカーの国内代理店に出して調整していただくことができた。目の前で調整してもらうものではなかったが、何故か思い通りになって帰ってきた。

    - 全身に金を纏った逸品 -

 そんな私が、一度シェーファーを手にしてからはすっかりこの反りが気に入ってしまった。インペリアル777を手に入れる前に、同じく555を持っていた。こちらの方は、プラスチックのボディなのでキャップをボディに差し込んだ時、確り一体になる。777の方は金属なのでプラスチックほどグリップがよくない。強く差し込むとボディに傷が付きそうで、怖々にキャップを入れると安定せずにくるくると回って取れてしまう。エイヤとばかりにぐっと差し込むようになったが、恐れていた傷はつかない。

 金メッキなら傷が付きそうなのにと不思議に思っていたのだが、その疑問はある時解けた。中央に刻印されている12K.G.Fの表す意味は、12金ゴールドフィルド、即ち地金にかなり分厚く金を圧着したものだったのだ。道理で擦り傷などが着かないのだと納得した愚か者だ。もちろん、傷が全く付かない訳ではないのだろうが、私の愚かさと臆病な扱いが功を奏して今でもピカピカのままでいる。

 機構はカートリッジ式なので、インクは気に入っているシェーファーの緑がかったブルーブラックを入れている。ボトルのブルーブラックとは違う色味を楽しみながら、日記を書くのに使っている。
 ペン先のイリジウムがぽってりとついているので、どの角度で書いても確りかつ滑らかにインクを紙に送ってくれる。

■ ペン先  : 14金 インレイド・ニブ
■ サイズ  : F
■ 機構   : 両用式 (中押し式コンバーター内蔵)
■ 材質   : 純銀(925スターリングシルバー) / ゴールドプレート
■ 長さ   : 133mm / 約148mm(筆記時)
■ 太さ   : 12mm
■ 重さ   : 24g

Lady Sheaffer 632

    - 「女性用」に作られた万年筆 -

  1970年に発売されたこの万年筆は、女性用に作られたものだ。ボディの柄もたくさんある。女性のために作られたので、装飾性や可愛らしさがかなり意識されている。あまり派手ではないアルミのボディでも、真ん中のリングに凝った装飾が施されている。Ladysheaffer10
1970年代といえば、アメリカで始まったウーマンリブ運動がピークを迎えた時期だ。アメリカのシェーファー社がそれに押されてか、あるいは賛同して作ったのか、知る由もない。しかし、このレディシェーファーは、現在では万年筆を趣味にしている人の間で人気が高い。
 私がこの万年筆を手に入れたのは数年前だが、量産されて比較的に値の張らないシェーファーのビンテージ万年筆のはずが結構の出費になった。現在の市場では、他のモデルよりもこのモデルは高値で取引されているようだ。カートリッジも現在のものが使えるので、まだまだ現役だということなのだろう。

    - 自宅でメモに使う -

 私は、この万年筆を自宅で予定を手帳に書き込むのに使っている。理由の一つは、自宅以外で使うには少し女性らしいセクシーさがあるので格好が気になるという自意識過剰なところにある。もう一つは、格好を気にしないなら、小さな文字を書くのにとても書き心地がとても良いことだ。ペン先は、特殊な「爪形」をしていて小さいが、適度な撓りがあり、例によって反っているので、ガリガリと紙を削る感覚は全くなくすらすらと書ける。もう一つは、私がシェーファーの落ち着いたブルーブラックのカートリッジインクの色が好きだからだ。同じシェーファーのブルーブラックインクでも、他のメーカーの殆どがそうであるように、ボトルインクとカートリッジインクでは色合いが違う。微妙に違うものもあれば、極端に違うメーカーもある。シェーファーはどちらかというと後者の方だ。

    - その小ささに意味あり -

 シェーファー社は昔はどちらかというと、万年筆全体が小型だった。後に記事にしようと思っているシェーファーインペリアルも人気の高い万年筆だが、ペンの大きさは、このレディーシェーファーとほぼ同じだ。男性が使うには少し小さい。この万年筆に収まるようにカートリッジがあるが、このカートリッジに入るインクの量が他社と変わらないほどたっぷり入っている。だから細字万年筆に使うとなかなか無くならない。小さな万年筆でたっぷり書けるというわけだ。何となく、そのあたりも女性好みでもあるような気がする。

■  ペン先 : 14金 爪形ペン先  文字幅 : EF
■  ボディ/キャップ : ブラスベース
■  サイズ/重さ:長さ : 134mm / 145mm  軸径:11mmφ 重さ:20g
■  機構 : カートリッジ / コンバーター(中押し式)両用式 / キャップタイプ

Sheaffer Legacy Heritage Black Lacque, Palladium Plate Trim

     - シェーファー レガシー ヘリテージ -

 シェーファー社の歴史は古く、100年近くになる。アメリカで生まれたこのメーカーは、
様々な新しい機構を生み出し万年筆の歴史に名を馳せた。レガシーヘリテージは、同社の
ハイエンドモデルであり、フラッグシップになっている。私が選んだブラックラッカーパ
ラディウムトリムの他に、スターリングシルバーやブラッシュトゴールドなどのバリエー
ションも有名で人気が高い。アメリカ大統領の何人かが世界の舞台で使った歴史もある。

 シェーファー万年筆の最大の特徴は、大きな菱形をしたインレイドニブだ。昔からこの
形をしている。例えば、モンブランならキャップトップのホワイトスターのロゴマークが
モンブランのブランドシンボルになっており、ペリカンなら自分の血肉を子に与えるペリ
カンという鳥の愛情の深さを表す親子二羽のペリカン図柄と嘴の形をしたクリップがメー
カーのシンボルになっている。シェーファーの場合は、この大きな菱形ニブこそが、メー
カーを主張するシンボルだと私は思う。クリップに付いたホワイトドットにも何かの意味
があるのだろうが、私にはメーカーの「おまけ」にしか思えない。

 万年筆のボディが地味な黒色エボナイト製だった時代から、高価な鼈甲に変わる素材と
して発明されたセルロイドがボディに用いられるようになり、万年筆が総天然色の色合い
を帯びた時、万年筆はまさに百花繚乱の時代を迎える。ペン先にもそれまでにない工夫が
施されて、様々な形が生み出された。メーカーが競って新しいペン先やインクの吸入機構
を考案し世に問う時代が来たのだ。100年と少し前のことだ。

 そんな時代に、ウォルター・A・シェーファーは従来の万年筆に不満を持って、自分で
万年筆を製作した。これがシェーファー万年筆の誕生だ。以来、生涯保証の万年筆やタッ
チダウン吸入式などの特許を得て、その成功が今日に至っている。
 長い歴史の中で、このペン先の形は変わらない。メカニズムへの自信の表れだと思う。

    - ペン先のしなり -

 通常の万年筆は、ペンポイントがペン軸に沿った角度か、あるいは、軸の中心に向かっ
ている。シェーファーの万年筆は、それが全く逆で、上を向いて反っている。私は、日本
語を書くならペンポイントは鉛筆の芯のように中心にある方が良いと思っている。中心か
らずれて軸の上部側にあると、書いていてふわふわと落ち着かない感じがして思うように
文字が書けない。書くのが嫌になる。実際に何度かそのような万年筆と出逢って試し書き
をしてみたが、購入したことはない。
 外見がいくら気に入っても、ペンポイントのある角度が気に入らなければ、その万年筆
とは縁がなかったと諦める。この点から見れば、シェーファーの万年筆は毛頭眼中に入ら
ないはずのものだ。

 柔らかなペン先を思いのたけ紙に押しつければ、しなって弓のように撓む。その撓んだ
弓形を最初からシェーファーのペン先は形作っている。逆もまた真なりとはこのことか。
 その、好みとは全く反対のペンポイントが紙に触れると、あたかも柔らかなペン先がし
なっているかのような書き心地なのだ。筆圧の軽い私には、これ以上ペン先をしならせる
ことはない。シェーファーはどちらかというとペン先が硬い。しかし、最初からしなって
いるかのような形のゆえに、妙に硬さが気にならない。これこそが、シェーファーの狙い
なのだろうと思う。

     - パラディウム トリム (私的理由)-

 私はこの万年筆をJR京都伊勢丹の万年筆売場で贖った。JR京都伊勢丹では、メンズ
の6階でも万年筆を置いている。売場には、キャップがパラディウムでボディが黒のツー
トーンカラーのものと、ルック・オブ・レザーという皮革模様のボディと、このパラディ
ウムトリムの3種が置かれていた。他の種類が置かれていたとしても、この3種から選ん
でいただろうから、それで十分だった。
 ツートーンカラーは、ペン先が金色だったので却下した。これは、その時の好みの問題
だった。一応試し書きはしたが、ピンと来なかった。ルック・オブ・レザーと迷ったが、
微妙な書き味の違いで、こちらを選んだ。ルック・オブ・レザーも悪いとは思わなかった。

 クリップの締まり具合がぎこちなかったので、後日、キャップだけ交換していただく約
束をして、これを持ち帰った。今使っているものは、キャップもクリップも問題はない。

 購入した時のことをよく覚えている。万年筆はいくらボディが良くてもペン先が気に入
らなければ使えない。ペン先の柔らかさや調子の良さが気に入って、書き味だけが気に入
らない場合もあるが、そんな時には、調整で何とかなるものか、調整が効かないものなの
かで判断する。
 何年も使って自分の癖が付くのも調整の一つと私は考える。ペンクリニックなので、プ
ロに調整してもらうのも調整だが、自分が最も書き味が良いと感じるまでには、やはり何
年かの年月が必要だ。

 シェーファーレガシーは恐らくプロに調整してもらっても、劇的に書き味が変わること
はないと思う。だから、最初の印象が大切だ。
 この万年筆に出逢ったことを幸いに思う。ボディのデザインも、今こうして見れば、主
張し過ぎず、書くことに専念させてくれる飽きの来ない拵えだと思う。

  【ペン先・機構等】

■  ペン先:18金 文字幅:F
■  ボディ/キャップ:ブラスベース ラッカー仕上げ
■  クリップ/トリム:パラディウムプレート
■  サイズ/重さ:長さ:138mm (収納時)150mm (筆記時) 軸径:12.5mmφ 重さ:38g
■  機構:カートリッジ/コンバーター両用式/キャップタイプ

1960's Sheaffer Imperial Ⅳ Deluxe

     - シェーファー万年筆 -

 シェーファーの万年筆が日本で広く知られるようになったのは、1970年代の初め頃だった。それまで海外の万年筆メーカーとしての有名どころと言えば、モンブランとパーカーであり、シェーファーが高級万年筆として2つに続いた。
 もちらん、他の海外メーカーも万年筆を百貨店や高級文具店に製品を並べていたが、それほど種類も多くなく、この3社には及ばなかった。
 私が万年筆に興味を持つようになった頃とシェーファーの本格的な日本デビューは、奇しくも時が同じだった。

 1960年代~70年代のシェーファーには名品が多く、今でもビンテージ万年筆として中古品が取引されている。インペリアルシリーズは、1961年から1976年まで製産されていた名品だ。このインペリアル4型は初期のものであり、装飾は極めてシンプルで、ボディーに小さく
  "SHEAFFER" "MADE IN U.S.A." と刻印されているだけだ。
 しかし、一目でシェーファーとわかる短めのクリップにホワイトドットと、キャップを開けると、目に飛び込んでくる大きな菱形のインレイド・ニブのペン先が、洗練されたスタイルと調和してエレガントに個性を湛えている。

 シェーファーが万年筆メーカーとして確固たる地位を得たのは、レバー充塡式万年筆の特許を取得してからだが、1920年に、構造上の故障にたいして永久保証が適用されるライフタイムペンを発売し、その後、空気の圧力を利用してインクを吸入するタッチダウン式万年筆を考案し、これも特許を得ている。

     - インペリアル 4型 -

 インペリアル4型は、40年以上前の万年筆で、タッチダウン式インク充塡方式だ。尻軸のネジを緩めて金属管を引き出す際に、空気を押し出して真空状態にして、尻軸を押し込む時にインクを吸入する。
 金属管を引き上げる瞬間、また金属管を押し込む瞬間に耳を澄ますと、「プシュ」っという小気味よい音が鳴る。それが何とも愛おしい。

 重さは非常に軽く、ペン先Fの細字でも、中型万年筆の用途とは思えないほど大きな文字から小さな文字まで書ける。
 通常、私はペン先は鉛筆の芯のように中央に向かっている方が書きやすいと思っており、他の万年筆は必要とあらば、そのように調整している。
 しかし、このインペリアル4型は全く逆で、ペン先が穏やかに上を向いて反っている。紙にペン先が当たるときの柔らかい感覚はこの「反り」が生み出している。他の万年筆と違う面白くも小気味よい書き味を思い出し、最近はよく使っている。
  
 ちなみに、インペリアルには、パイロットの色彩雫インク「月夜」を入れている。ボディとよく合う色合いで、線も綺麗に書ける。
 また、最近、現代にこのインペリアルのペン先とスタイルを受け継いでいる「レガシー」を一本購入した。このレガシーにはブルーブラックのカートリッジインクを入れている。

  【ペン先・機構等】

  ■  ペン先: 14金 インレイド・ニブ
  ■  サイズ: F
  ■  機構 : タッチダウン吸入式
  ■  長さ : 137mm(収納時) 146mm(筆記時)
  ■  太さ : 11mm
  ■  重さ : 17g