Pelikan Souverän M405

     - 「冬枯れ」のための万年筆 -

 数年前、神戸の万年筆店「ペンアンドメッセージ」を訪れた。どの万年筆を購入したのか、すぐには思い出せない。しかし、この万年筆を購入した時のことは鮮明に覚えている。 penandmessage.jpg店主の吉宗さんが店を構えられて間もない頃だったと思うが、ある万年筆を購入した時、会員証のような物だったか、保証書にだったか吉宗さんが文字を書かれた。ペリカンM800の同軸に朱の漆を塗ったもので、「ぼくの万年筆はみんな朱くされてしまうのかなぁ」と苦笑されていた。私はそのペリカンを貸してもらって、自分の住所と名前を書いてみた。何とも良い書き心地だった。そのことを告げると、「この万年筆、私が調整した万年筆の書き心地が悪かったら、商売をする資格がないとうか、できませんよ」と、至極尤もな言葉が笑顔で返ってきた。 私が感心したのは万年筆だけではなかった。灰色がかった黒というか、墨のように柔らかな黒のインクがとても気に入った。尋ねてみると、吉宗さんがブレンドしたオリジナルインクとの事だった。「邪魔にならない黒でしょ」と続く。もうすぐこの店の商品にしようと思っているのですと嬉しい告知をしていただいた。

 それから月日が経って店を訪れてみると、あの告知どおりにオリジナルインクが商品になっていた。「冬枯れ」という名前も洒落ている。このネーミングの謂われは聞いていない。
 私は早速、一瓶いただいた。冬のことで時刻も遅かったので、暖かい珈琲でも飲んで帰ろうと思って、そそくさと店を出た。
 近くの西村珈琲店で珈琲を飲みながら、この冬枯れをどの万年筆に入れようかと考えてみると、思いつかない。いっそ、このインクが似合う万年筆を買おうと意を決した。少々帰宅が遅くなっても良いと思って、私はペンアンドメッセージに引き返した。

 「ペンを買ってそのペンに似合うインクを探される方はいらっしゃいますが、インクを買ってペンを探されるのは初めてです」と、吉宗さんも少し笑いながら万年筆探しを手伝ってくれた。
 3本の万年筆を候補にあげてもらって、試し書きをした。ダークブルーのボディから墨色が出てくるというのが、派手な見かけと渋い中身という何とも言えない微妙なアンバランスという妙なバランスが気に入った。このモデルはもうすぐ製造中止になるそうですよという吉宗さんの言葉が私の買う気を後押しした。
 少し調整をしてもらって、冬枯れを入れて帰った。

 今では国産メーカーも競うように多くの色のインクを発売し、万年筆店もそれぞれのオリジナルインクを沢山出している。インクブームといっても良いくらいだが、「冬枯れ」はそのブームの走りだった。

  【機構・サイズ等】

  ■  デザイナー:Gerd A. Mullar(ゲルト・アルフレッド・ミュラー)
  ■  ピストン吸入式
  ■  ペン先:14金プラチナ仕上げペン先
  ■  文字幅:M
  ■  138mm(収納時)/150mm(筆記時) 軸径:13mmφ 重さ:20g
  ■  ボディ:ポリカーボネイト
  ■  クリップ:ステンレス

1  2  3  4