Waterman Expert Essential Black CT

    - ウォーターマンのエスプリ -

 ウォーターマンの万年筆は、何よりも筆記時のバランスが良いことが特徴だ。ボディは金属製で32グラムの重さがありカレンとほぼ変わらない。カレンもそうだが、このエキスパートも全体のフォルムはやや細長く見える。キャップを後ろに嵌め込むとその細長さがエレガントに見えるだけでなく、握った時のバランスが実に良い。細いといっても、胴軸径は約13㎜あるので一般的な太さだ。バランスが良いから重いと感じさせない。
 このエキスパートはモデルチェンジをしている。旧モデルに対して新モデルはエッセンシャルという名前が付け加えられている。「ウォーターマン・エキスパート ブラックCT」から「ウォーターマン・エキスパート・エッセンシャル ブラックCT」にリフレッシュされた訳だ。ちなみに、旧モデルの方が軸径がやや細い。

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 その書き味は、ペン先イリジウムが丸研ぎなのでスイートスポットが広く、線を捻ってもインクフローに斑が無い。殊に細字の F だとその功用がより確かに分かる。もっとも、私はペン先を捻って書く癖がないので、その功用には関係がないのだが。

    - 文字の魔力 -

 私がこの万年筆を使うのは、小さな字で斑無く書きたい時だ。味のある字で書きたい手紙や人に渡すメモなどには使わず、ビジネス手帳の月刊予定のページにスケジュールを書き込む時に使う。スケジュールのページは、見開き2ページで一ヶ月のイベントなどを書き込む。要件と時間と場所だけを簡単に記入しておく。文字が揃っていると、予定に圧迫感を感じない。不揃いな大きさの文字で書くと、大きな文字で書かれたり濃い色で目立ったりする予定ほど重要に思う錯覚が無意識に擦り込まれて、意識的につけたプライオリティが狂ってしまう。文字の持つ魔力のようなものがあると思うのは私だけだろうか。

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    - エレガンスと利便性 -

 エクスパート以外にもペン先スチールの万年筆は何本か使っているが、どれも上の理由で用途が決まっている。用途が決まっているからこそ、数種類の万年筆で書きたくなる。固いペン先の万年筆には、その固さが長所になる。
 エクスパートはキャップ嵌合式だ。蓋をする時にはカチッと音がする。後ろに差し込むときもカチッと音がして嵌め込まれる。書きたい時に手間をかけない利便性も備えた万年筆だ。

■ ペン先  : ステンレススチール 
■ サイズ  : F
■ 機構   : コンバーター、カートリッジ両用式、 / キャップ 嵌合式
■ 材質   : ボディ> ブラスラッカー仕上げ / トリム> ニッケルパラジウムプレート仕上げ
■ 長さ   : 約142mm(収納時)/ 約152mm(筆記時)
■ 太さ   : 12.5mmφ  / キャップ径:13.5mmφ
■ 重さ   : 32g

Waterman Carène (Frosty Brown)

    - 2本目はフロスティブラウン -

 ウォーターマンのカレンは、これが2本目だ。前に載せた1本目の記事では、「ようやく買った」と記したが、その時はすでに半年ほと経っていたので、今ではおよそ1年以上使っていることになる。

 横書きのメモをとることが多くなってきた最近、細字万年筆をよく使う。速書きにはインクフローの点から文字幅Fが限界だと思っていた。それ以上細いEFだとインクの出がついてこないだろうと想像していた。筆圧の軽い私は、よほどインクの出が潤沢でなければストレスを感じてしまう。

 カレンの文字幅Fは期待を裏切らず速い運筆に応えてくれる。書く文字の大きさは、コクヨのレポート用紙A罫(太罫)か、アシュフォードのメモ用紙、これは常に持ち歩くバイブルサイズの手帳のリフィルだが、この二つの罫幅に収まるほどの小さな字だ。

 小さな字を速く書ける万年筆。これがこの2本目のカレンを手に入れようと思った時の思惑だった。文字幅Fはすでに知っていたから、『本当に試してみるだけ』という気持ちで、カレンのEFを出して貰って試し書きをしてみた。

    - 同工異曲の拵え -

 試し書きの結果は、思い掛けないことだった。まず、インクフローについては、カートリッジを入れてみないと、つけペン式試し書きではわからないので、つけて貰ったインクが無くなるまで落書きしてみた。なかなかインクが無くならず、ようやくこれが本来の線の太さだろうと思うくらいになった時のことだった。ペン先の撓りが微妙に違う。それに線がシャープに書ける。

 単に、FよりもEFの方が細い線が描けるというだけではなかったのだ。試してみるだけという気持ちはすっかり消え失せて、あとはボディーの色を選ぶだけだという構えに変わっていた。

  <レポート用紙に EFで描いた落書きを拡大してみた。>
      拡大し、ピントが甘い「芭蕉の句」

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    - カレンのボディーカラー -

 カレンには、次のボディーカラーがある。単色では、
   ・ガーネットレッド   ・グロッシーレッド  ・チャコールグレー 
   ・フロスティブラウン  ・ブラック  ・メリディアンローズゴールド
   ・メリディアンシルバー ・ヴィヴィッドブルー
 ツートーンでは、
   ・エッセンシャルブラック  ・コンテンポラリーブラック 
   ・コンテンポラリーホワイト ・ブラック&シルバー
   ・ブルー&シルバー
   がある。

 店頭に全てのカラーが揃っていたわけではないが、私は一も二もなくフロスティブラウンを選んだ。何とも落ち着いた色だ。それでいて慎ましい存在感がある。最近、といっても何年か前に出された新色らしい。
 今は先に手にしたブラックシーSTとフロスティブラウンを同じペンケースに入れて、その時の目的や気分によって使い分けている。まだまだペン先が若く、すっかり私の手に馴染んでいるわけではないが、将来が期待できる見込み十分な若者だ。

   <下は文字幅 Fのカレンで書いた落書き。速く書いても確りついてくるので安心> CareneBrown11.jpg










■  ペン先 : 18金ロジウムプレート仕上げ 文字幅 : EF
■  ボディ/キャップ : ブラスベース ラッカー仕上げ
■  クリップ/トリム : ステンレススチール シルバープレート仕上げ
■  サイズ/重さ:長さ : 144mm 軸径:12mmφ 重さ:34g
■  機構 : カートリッジ / コンバーター両用式 / キャップタイプ

Waterman Carène (Black Sea ST)

     - ようやく買ったウォーターマン・カレン -

 ようやく買ったウォーターマンのカレンだ。何年も前から気になっていた万年筆
だった。今回、買ったモデルは、ウォーターマン カレン ブラックシー ST。
 私が行く万年筆店には必ずカレンがあった。そして、私がどのような万年筆が欲
しいかを告げると、そのたびにカレンが候補にあがった。試し書きを何度かしたが、
数行の文字を書くだけで終わった。ペン先があまりにも硬いからだ。

 私はこれまで、万年筆のペン先は柔らかいものと決め込んでいた。硬いペン先は、
安価なスチールペンの証だと思っていた。ラミーのサファリなどは、数千円で手に
入るので、割り切って何本か買っては、いろんなインクを入れては楽しんでいた。
今手にしているカレンも、ペン先はまるでスチールペンのように硬い。
 しかし、スチールペンとは違う書き味がある。18金で作られたペン先は、それだ
けの理由があってのことだと思う。

 買ってみて初めて知ったことだが、このペンにはペン芯がない。いや、隠されて
いて見えないのかもしれない。ボディに埋め込まれたペン先の裏には漆仕上げのボ
ディが続いていて、小さな空気穴があるだけだ。ウォーターマンのことだから、何
か仕掛けがあるのだと思うが。少しインターネットで探してみたが、この仕掛けを
解説している記事はなかった。

 私がこの万年筆を今まで買わなかった理由は、もう一つある。それは重さだ。こ
の中型の万年筆にしては、少し重い。同じ大きさのペリカンと比べれば、随分重く
感じる。しかし、こうして手にしてみると、ボディのバランスが重さを感じさせな
い。万年筆店の店員さんが薦めてくれる理由が、購入してみて初めて分かった。

 キャップがネジ式ではないので、電話中にメモを取ろうとする時、片手で取り出
してキャップが外せる。実は、今回購入しようと思った理由もそこにある。
 クリップも長いので、ポケットに入れていて落ちる心配がない。

 クリップからペン先まで全て曲線でデザインされたボディは、いかにもフランス
製らしいエスプリを醸し出している。
 ウォーターマン・カレンという万年筆は、購入してみて初めてその良さが分かる
万年筆だ。

  【ペン先・機構等】

■  ペン先:18金ロジウムプレート仕上げ 文字幅:F
■  ボディ/キャップ:ブラスベース ラッカー仕上げ
■  クリップ/トリム:ステンレススチール シルバープレート仕上げ
■  サイズ/重さ:長さ:144mm 軸径:12mmφ 重さ:34g
■  機構:カートリッジ/コンバーター両用式/キャップタイプ

Waterman CF Chrom Plate Cap

     ウォーターマン -その技術とデザイン-

 ウォーターマンほど数奇な運命を辿った万年筆メーカーはない。
 1883年に世界で初めて毛細管現象を応用した万年筆、「ザ・レギュラー」を誕生させた。
 ルイス・エドソン・ウォーターマンは、ニューヨークで保険外交員として働いていた。ある大きな契約を取り交わす席で、彼は万全を期して新しいペンを取り出したところ、インクが契約書に滴り落ちた。急いで新しい契約書を用意したが、ライバル会社に契約を取られてしまった後だった。
 この苦い経験から、インクの洩れない毛細管現象の万年筆を発明したのである。 1926年に
フランスに拠点を移し、1954年にはアメリカの工場を全てフランスに移している。 1970年に
著名な工業デザイナー、アラン・カレを専属デザイナーとして起用した。
 ウォーターマンの理念は、「優れた技術とデザインを融合させて、持つ人に表現する喜びを提供すること」だ。ウォーターマンの世界初は毛細管現象の応用だけではない。
 インクカートリッジとキャップに付けたクリップもウォーターマンの発明によるものだ。この三つのうちの何れの一つをとっても、そのパテントだけで世界一の万年筆メーカーになれたと思う。しかし、ウォーターマン社は何度も身売りして現在に至っている。

 今では、「フランスの」確固たる万年筆メーカーとしての地位を得ているが、「技術とデザイン」そして、その「理念」が先駆けであったにしても、あまりにも時代が早過ぎたのだ。
 私は、経営よりも技術とデザインと理念を重んじているウォーターマンが好きだ。その不器用なところが愛おしい。きっと、今後も不器用な経営をしながら、私たちを楽しませてくれるに違いない。 Waterman CF

 象嵌タイプの先端デザインも気にいっている。この万年筆全体のデザインから考えて、このペン先の形に拵えたものだと思う。
 刻印は、18K 750 菱形マークの中に VS|WM とある。


     ウォーターマン CF -京都丸善で購入-

 私はこの万年筆を京都の丸善で購入した。京都丸善は今はない。昔、京都の丸善では、不定期に万年筆の展示会やセールを行っていた。随分後に分かったことだが、その展示会では、私の義理の祖父の万年筆も、「松林久吉所蔵(非売品)」として展示されていたらしい。
 私は、日頃から懇意にしてもらっていた店員さん(確か、名前は斉本さんだったと思う)の紹介で、セールの日に出掛けた。ビンテージものの万年筆や、少し型が古くなったものが手頃な価格で販売されていた。
 私は斉本さんに勧められて、このウォーターマンCFを購入した。その時は、試し書きが出来なかったが、万年筆に詳しい斉本さんの「この万年筆はお買い得ですよ」という言葉で購入を決めた。それまでに、モンブランやウォーターマンを何本も購入し、微妙な調整もしてもらっていたので、私の好みを知ってくれていたのだったのだと思う。
 私が購入したのは1980年代の初めで、この万年筆が売り出されたのは1970年代だから、商品としては少し型が古くなったのだろう。確かに、手頃な価格で良い買い物をした。

     -毎日見るスケジュール帳に使う-

 ペン先がEFのこの細字万年筆は、思った以上に使い道が広かった。やや硬めなので、小さな文字の線を思ったとおりに表現してくれる。 硬くても筆圧の強弱で線の太さを変えることができる確実なインクフローの機構なので、英文を筆記体で書く時にも使う。
 最近は、仕事のスケジュールを記入するのに使っている。スケジュールは小さな文字で書くのが良い。大きな文字で書くとスケジュールに圧迫感を感じてしまう。インクの色も大切だ。他の万年筆には、自分で配合したブルーインクを入れているが、ウォーターマンのブルーインクだけは細字にちょうど良い色なので、ウォーターマンブルーのインクをこの万年筆にカートリッジで入れて使っている。

 毎年、ダイゴーのA5サイズのスケジュール帳を購入し、専用カバーを外して、気に入っているアシュフォードのノートカバーに差し替えて使っている。

TEBE〈Treuleben und Bishof〉のペンケース
TEBE〈Treuleben und Bishof〉のペンケース

TEBE〈Treuleben und Bishof〉
  テベのペンケース
 ドイツ・ミュンヘンの熟練した職人が妥協のない目で選んだ皮素材で作ったものだ。
 残念なことに、今は日本で手に入らない。3本の万年筆には、それぞれ違ったインクを入れている。これが、スケジュールのスタイル。

本当の名前は知らない。(どなたかご存知であれば、教えていただきたい。)

この万年筆を買った時(30年ほど前)は、マイスターシュテュック149が5万円

程度だったのだが、この万年筆は、それより3万円ほど値がはった。

たぶん、ウォーターマンが最近の新作として売り出した「セレニテ」的存在だっ

たのだと思う。

キャップを閉めても、軸の後ろに差し込んでも、中途半端なところで止まって、

これで締まっているのかな?と思わせる。セレニテで言えば、軸が曲がって

いるように、万年筆の常識にはないデザインだ。

しかし、それが美しいから、さすがにウォーターマンだなと思わせる逸品だ。

実は、長い間眠らせていたのだが、数年前にペン先の調整を神戸の万年筆

店、"Pen and messsage" のマスター吉宗様にしていただき、それ以来、

実用として使っている。

追記:2016年、万年筆に詳しい人に名前を教えてもらった。