OMAS BOLOGNA Blu Madreperla
- オマスの万年筆 -
オマス社の万年筆が、また国内で手に入るようになった。ここ数年前、最近のことだ。オマスの万年筆が一時期日本の市場から消えたのは10年以上前のことだと思う。代理店が全て撤退したのだ。
先に記事を掲載したオマス・パラゴン(2011年8月5日)を京都の「文明商社」で奇跡的に手に入れた時は、小躍りするほどに喜んだものだ。暫くして、喜んだ思いとは裏腹に、もう日本では2本目は手に入らないという寂しい気持ちが頭を擡げて、どうにかならないものかとオマス探しを続けた。それほどパラゴンは私を魅了したとも言える。
4年ほど前、息子がイタリアへ行った時、ローマから電話をくれた。私の万年筆好きは元より承知していて、万年筆店に立ち寄ってくれたのだ。土産に一本買ってくれるとのことで、どのようなペンが良いかと尋ねるのが電話の用件だった。私は一も二もなく、オマスはあるかと聞いた。彼は万年筆店から電話してくれていたので、たくさんあると即答した。サイズや機構など私の望みを告げたが、私も運転中だったので、大旨のことだけを知らせ、あとは任せることにして電話を終えた。
息子が帰国して、立派な箱に入っているよと言いながら手渡してくれたのがこの万年筆だ。
- オマス ボローニャ マザーオブパール・ブルー -
オマス創設80周年を記念してデザインされたボローニャコレクションは、
高級筆記具に新たなデザインを与えるべく改良されました。
円くバランスの取れたボディが、より快適な書き心地を生み出しています。
新しいデザインとしてボローニャ市のシンボルであるポルティコ(アーケード)が、
14金のペン先に彫刻されています。
<オマス公式ホームページより抜粋>
オマスの公式ホームページには、このような説明が載せられている。なるほど、この万年筆の最大の特徴は、ペン先の彫刻だと思う。キャップトップの尖り帽子の形は昔から変わらない。他のメーカーより一条多く切られたキャップのネジも変わらない。キャップの装着と取り外しに一回転余分に回さなければならない点も一手間かかるオマスらしい。
ボローニャの印象はパラゴンに比べて、普通度が増したことだ。重さや大きさ、キャップを尻軸に差し込んだ筆記時の長さなどが、全て平均的になっている。従って、他の万年筆との違和感がない。普段使いに相応しい万年筆だと思う。
- 「マザーオブパール・ブルー」の色 -
土産としてもらったので、目の前で早速箱を開けてみた。その時、奴さんは少々驚いたように「黒だと思っていた」と打ち明けるように言った。よほど照明を落とした落ち着いた店だったのだろう。オマスのホームページを見ると、名前のとおり鮮やかなブルーに写っている。しかし、実際は限りなくグレーに近いブルーだ。マーブル模様にマイカを散りばめたレジンを削り出したものなので、一本一本違う色合いになる。太陽光、白熱電球、蛍光灯とその照度によって色が深くなったり明るくなったりする。
私は最近訪れた東京の万年筆店(後にブログで紹介)で同じ経験をした。日本ではあまり目にしないフランス製の万年筆で気に入ったものがあったので、試し書きをさせてもらおうと、ショーケースから出していただいたところ、黒だとおもっていたボディーの色が鮮やかなブルーだった。
そのブルーは遠慮したが、このオマスは大変気に入っている。落ち着いたボディーの色と飽きのこないデザインは、机の上に置いていて眺めているだけでも楽しい。書き味も良いので、かけがえのないの一本だ。
【ペン先・機構等】
■ カートリッジ/コンバーター両用式(コンバーター シルバー付属)
■ ペン先: 14金 文字幅M
■ 長さ: 約137mm (収納時)/ 約162mm(筆記時)
■ 最大胴軸径: 約13mmφ キャップ径:約14mmφ (クリップを除く)
■ 重さ: 約29g 【素材】 レジン
OMAS Paragon
「文明商社」といういかにも古そうな名前の万年筆専門店が京都にある。創業は90年以上前の老舗である。私は父に連れられて初めてその店に行った。その当時は、まだ高校にも上がっておらず、万年筆に特に興味があった訳ではなかったので、父の万年筆購入にただ付き合わされただけのことだった。しかし、その時、父は「この万年筆屋さんが京都で一番有名な店や」と、店の主人と私のどちらに言っているのか分からない風情で少し自慢気に語ったことを覚えている。店の印象は、街角のごく普通の「文房具店」だった。失礼ながら、安価なボールペンや鉛筆が所狭しと陳列され、高級感は感じられなかった。(父が自慢気に言ったことを疑った訳では毛頭なかったが。)
父は確かパイロットの万年筆を購入したと思う。興味がなかった私は、何故一本を購入するのに、ああだこうだと店の主人と話しているのか理解できなかった。購入した万年筆を包装し終えた店の主人がそれを父に渡すと、私が少し退屈しているのを知ってか、そそくさと店を出て、そのまま家に帰った。夕暮れ時のことだった。
文明商社を私が二度目に訪れたのは、それから20年ほど経ってのこと。ふと父の言葉を思い出して、万年筆に興味を持ち、蒐集らしきことを始めていた私は、何を買う目当てもなく、店を訪ねた。
店の印象は変わっていなかった。愛想の良い女将さんが、「何をお探しですか」と訪ねてくれたので、万年筆に興味があることを告げると、「こんなんも最近入りました」と次から次へと他店では見られない珍しい高級万年筆を新旧関係なく出してきてはその万年筆について説明してくれる。
その中で一本、私の目を引いたのがオマス・パラゴンだった。この万年筆は少し前から知っていたが、実物を見たのは始めてだった。今思えば、すでに製造中止になっていたのかもしれない。残念ながら、その時は持合わせがなく買うことができなかった。第一、そんなつもりで店に入ったのではなかった。一通り、万年筆を観賞させてもらって、その時は、「いつか、このオマスを戴きにあがります。」と言って店を出た。
それから7年ほどが経って、あることがきっかけでどうしてもあのオマス・パラゴンが欲しくなった。インターネットで探してみると、どの店も完売だった。もちろん、買うなら文明商社でと思っていたが、まだあるかどうか。
2008年12月に三度、文明商社を訪れた。パラゴンはまだ、ショーケースにあった。「売れへんし、メーカーがこの万年筆を返して欲しいって言わはるから、もう返そうと思ってましてん。」と女将さんが言う。あと、一ヶ月遅ければ、この万年筆は一生私の手には入らなかったかもしれない。女将さんは、「書いてみはりますか」と気軽にパイロットのブルーインクを出してくれた。言葉に甘えて、試し書きをしてみた。
まず、驚いたのはボディの軽さだった。(ベジタブルレジンという特殊な素材)次いで、驚いたのは、切れるような書き味だった。今までに経験したこのないペン先の感触である。18金の柔らかな腰なのにペン先を弛まさずともしっかり紙の表面を捉えてインクを沁み込ませてくれる。日本刀のような鋭い刃物が力を入れずとも紙を切るような感じだ。私はすっかりこの万年筆に魅了されてしまった。
女将さんにそのことを伝えると、箱を奥から出してきて、「このとおり箱も汚れてるし、千円まけときます。」と売り出された当時の値段からまだ値引きしてくれた。倍の値段でも売れただろうにと後で思ったが、そのときは素直に女将さんの言葉に甘えた。
それから今まで使っているが、機構上何の問題もない。ただ、女将さんがこの万年筆をきっと長年磨き続けてきたから、キャップリングの雷文が少し掠れている。それもまた、この万年筆が、長年ショーケースに入っていて女将さんがせっせと磨いていた為だと思うと、奇跡的に残っていて私の手に入ったことの証のように思われて愛おしい。
ペン先の装飾も手製らしい。
OMAS Paragon
字幅:M ペン先:18金 ペン芯:エボナイト
ボディー:ベジタブルレジン 12面体 ピストン吸入式
キャップを尻軸に差すとモンブラン149より長く、インクタンクも149より
大きいので沢山のインクが入る。